【感想】グラス・オニオンの品質は高いが私は大嫌いである【アンビバレント】
グラス・オニオン。米ヴァラエティの報じたところでは、Netflixで2022年12月23日の配信開始からわずか10日間で、視聴時間は2億時間を超えて、視聴数は歴代3位まで上り詰めたそうです。残る上位は『レッド・ノーティス』と『ドントルックアップ』です。どうでしょう、逆転は時間の問題ですかね。
なお同日に配信開始した第1作のナイヴスアウトも8000万時間を突破しているそうです。これはセンセーショナルな大ヒットと呼べるでしょう。続編からNetflixに鞍替えした成功事例として歴史に刻まれそうです。
Twitterでも絶賛してるコメントを年末年始はよく見かけました。
ただし…私は嫌いです。(急な爆弾発言)
配役も衣装も脚本も演出も全て良かったと思います。
クオリティは申し分なく高いです。
でも、最後のオチだけは極めて不快です。
これだけで、私の好きな映画ではなくなりました。(苦笑)
強調したいのは、
グラスオニオンは決して粗悪な映画ではありません!
むしろ洗練された優れた映画だと思います。
ただし「優れた映画」と「好きな映画」が一致するとは限りません。
グラスオニオンはテクニックが非常に優れていて私も途中まで好きだったのですが、ラストで起きたことが「人類の歴史上マックスレベルに最低の野蛮行為」だったので、私は一気に嫌いになりました。
観ていて、ここまでラストで好き嫌いがひっくり返る映画も珍しいです。
ある意味では「すごくハートに響いた」と言えるかもしれません。(笑)
此処から先はネタバレありで語るので、
本編を未視聴の方はブラウザバック推奨します。
一応ミステリの種明かしはしませんが、
映画のクライマックスについて語ります。
▼ネタバレ感想:
私が嫌いになった理由。
それは…
終盤で名画『モナ・リザ』を燃やしたからです。
これはジョークだとしても許しがたい行為です。
人類の歴史上、最も有名で最も重要な作品であるモナ・リザを。
たった一人の悪い奴のアイデンティティをへし折るためだけに。
たった一人の悪い奴の人生を転落させるためだけに。
人類の最高の宝の一つを燃やした。
こんなの絶っっっ対にあり得ません。
許せることではありません。
人間性(humanity)に対する冒涜です。
創造性の欠片もありません。
ただの破壊活動です。
「タブーだけど俺やっちゃったぜ、おもろいやろ?」
そういう暴力的な行為でルールを破ったり常識を壊すことを、西洋で生まれた言葉で「革命」と言います。
誰かを倒すためなら歴史も伝統も容赦無く壊すのは、リベラルや左翼に非常にウケやすいオチです。(コンサバや右翼の対極の考え方なので)
当然のようにRotten Tomatoesも超高得点になっていて、私はもうウンザリです。正直、吐きそうです。
こんなものを見て「スッキリしたぜ!」なんて悪びれもなく言ってるアタマお花畑な人達には一度立ち止まって、よく考えてほしいものです。彼らの多くは「たぶん考えてないだけ」だと信じてます。
考えたらこんな展開を(手放しで)称賛なんてできるわけないんですよ。
「めちゃ良かったのに、最後に何しでかしちゃってんですか?」
なんて愚かで悲しい映画なんでしょうか。
私は、映画を総合芸術であり人類の叡智の結晶だと思っています。
こんな使われ方をするのには残念な気持ちを禁じ得ません。
●破壊映画の系譜とカタルシス:
過去にも「かけがえのないもの」をラストで破壊するカタルシスが魅力の映画は多くありました。キューブリックの『博士の異常な愛情』のラストシーンはその最たる成功例の一つでしょう。
しかし、それらは大前提として「人間として正しくない」という文脈で使われていました。それを一歩引いた視点で外から眺めることで「ああ人間って愚かだね。こういうことは繰り返さないようにしましょうね」と教訓を授かり、戒めを感じることが出来るから良いのです。
それがグラスオニオンの場合は、問題を解決するための手段として暴力が採用されて、そのまま完全勝利の雰囲気を出して終わります。何ですか、ラストカットの表情は?
ラストカットの女優の感情の読めない表情は、もちろんモナ・リザを意識したものです。ポーズも含めて完全にモナ・リザです。
なんで人類の最大級の至宝たるモナ・リザの代償が、どこにでも居る普通の女性のお前ごときで務まると思ったんだよ!!…とマジでクソ不愉快になりました。
そもそも、火事を起こしたのも防護装置を解除したのも全て自分のくせに「お前の未来の燃料がモナ・リザを燃やしたんだよ」なんて捨て台詞を吐くのはマジモンの糞野郎しぐさです。
これを厚顔無恥と呼ばずして他に何を呼ぶのか。こういう馬鹿で身勝手で無責任な黒人がアメリカでは持て囃されるから2020年のBLMブームみたいな茶番が起きるんです。マジで反吐が出ました。
米国も日本もエンタメ界は左翼思想がウケるので、それはもう大絶賛の嵐となった映画『グラスオニオン』ですが、あまりにも完成度の高いピクチャーで魅了しながら、最後に極めてリベラル思想の強い結末を「正しいこと」として押し付けてくる姿勢には、私は非常に強い嫌悪感を覚えました。
この映画では、作り手が何か大事なボタンを掛け違えている気がします。
破壊のカタルシスで、人間としての正しき心まで破壊できると思うなよ。
●最後のジェダイが壊したのもの:
ライアン・ジョンソン監督。
私はスターウォーズのファンではなかったので公開当時は理解できなかったのですが、今なら分かります。『最後のジェダイ』がスカイウォーカーへの信仰を根本から破壊する映画だったという本当の意味が。(笑)
モナ・リザの重要性と尊さを世間一般の人達がどこまで理解しているのか、あるいはフィクションであればどこまで許容できるのか、それらは個人的な尺度なのでよく分かりません。
しかし、アートの意義を、数千年の歴史をかけて人類が「人間性の表現」を蓄積してきたものだと信じている私には、モナ・リザを焼く行為は最大級に許せない蛮行でした。それを映画という芸術フォームで、世界中にリーチできるNetflixで豪華俳優を使ってまで、なおかつ燃やす行為を正当なこととしてプレゼンテーションしていることが、全くもって許せません。
繰り返しになりますが、世界で最も有名な絵画でも躊躇なく燃やし、最後に一般女性が同じポーズで構えて、「あんな絵画ごときに価値など無い」と笑い飛ばす。
それはまさに、スターウォーズ映画で「レイは何者でもない」「ジェダイなんて誰でもなれる」と価値観を根本から破壊した『最後のジェダイ』と一致します。ようやくガチ勢のファンの気持ちが分かったぜ。(苦笑)
●続編に残した禍根:
実際に家を燃やしたのは女性ですが、彼女に着火剤(未来の燃料)を手渡したブランにも大いに責任があります。
謎解きでは勝てないと分かって、だったら燃やしてしまえ。
それで良いのかよ?
論理と司法で勝てないと分かったら最後は暴力で解決するって、完全に反社会的組織のやり方だし、1970年代に極左の活動家連中がよくやってた手法(東大紛争;よど号ハイジャック;あさま山荘事件など)ですよ。
え、ブランって完全に左翼キチ老害じゃんか。
それで良いのかよ?
女性が本物の証拠をあんな近距離で見せびらかして
証拠の品を奪われてしまったのが全てのアホよ。
もうそれだけでイライラして、私は限界でしたが、
まさかのモナ・リザ炎上までやりやがって完全に立腹しましたわ。(苦笑)
流石にブランも「モナ・リザまでは燃やすまい」と思ってたのかしら。
司法に戦いを持ち込める証拠を燃やすような不届き者に対してブランが怒りを抱くのは理解できるのですが、それがモナ・リザごと焼き払ってしまうほどのことなのかは話が別ですよ。
ブラン=左翼活動家のキチガイおじいちゃん
ブラン=論破されると暴力に出る残念な人
もう私にはそのようにしか見えなくなってしまいました。(泣)
●じゃあどうすれば良かったのか:
簡単ですよ。
燃やされたメモもモナ・リザも偽物にしておけば良かったんです。
「あなたが燃やしたのは偽物よ、本物はこっち」
って探偵モノにお決まりの演出で良かったじゃん。
「こんなメモごときで物証になるとでも思ったの?」
「今のあなたの発言は全部レコーダーに収めました」
とかで良かったじゃん。
モナ・リザは必死に守り切って
ボロボロになりながらなんとか絵だけ無事に回収して
周りの皆から
「お前も所詮はその程度かよ、破壊者が聞いて呆れるぜ」
で信用を失うで良いじゃん。
もしくは後日談でルーヴル美術館の関係者から
「問題ありません。あれは偽物でして」
「超高性能な贋作を利用させていただきました。ナノレベルで同じ形状なので物理的には本物と相違ございませんでした。なお、貸出自体が前代未聞ですので、この件で当館の信用が損なわれることはありません。むしろ、一人の愚かな成金野郎に預けないことで、人類の宝を守ったと賞賛されるでしょう。ご心配なく」
と連絡が入るシーンを入れるので良いじゃん。
人類の宝を救う描写が欲しかった。
私からはそれだけです。
了。