【ザ・フラッシュ】DCEUは一度ぜんぶ捨てた方が良い理由(2023初夏)
DCEUの最終章と目される『ザ・フラッシュ』の劇場公開を前に、文章に残しておきます。(*筆者は執筆時点で未見です)
ワーナーはスナイダーの匂いが残るものを一度ぜんぶ捨てて前に進むべきです。
しゃべんじゃーずの柳生源十郎さんもタイトルだけなら同じように見えること(脱スナイダーの必要性)を解説していましたが、彼と私とでは一番大事にしている根幹が異なるので結論のニュアンスは若干異なります。
その差分とは、アメコミを中心に据えるのか、ザック・スナイダーを中心に据えるのかという違いです。
もちろん柳生氏がアメコミで、私はザックです。
彼と私で共通しているのは、ワーナーの子会社であるDCフィルムズはこれまでDCEUとして積み上げてきた物(=スナイダーが始めた物)を一度ぜんぶ捨てて再スタートしたほうがDCUとしての成功の可能性は高まる、ということです。
しかし柳生氏が「ザックを捨てて新しいものを見たい」と語る一方で、私の主張は「ザックを戻すためにザックを捨てろ」という一見矛盾したものです。
「あんなに素晴らしいSnyderverseを捨てるなんてどうして?」
「モモアをアクアマンから降ろすなんて意味がわからん!」
「ガル・ガドットのワンダーウーマン3が中止ってマジかよ?」
そんな声が聞こえてきそうですが、それには深い訳があるのです。
これまでの経緯を踏まえつつ順番に考えていきます。
▼背景:
🔵これまでのDCEUを振り返る
平成28年。先行して大成功していたディズニー社の「MCU=Marvel Cinematic Universe」に触発されて、ワーナー・ブラザース社(WB)は「World of DC」として既に走り出していたザック・スナイダーのプランを途中で強引に変更しました。
世間一般では平成29年5月のザックのDC離脱が分岐点だと認識されがちですが、実際の変化はその前年から起きていました。スタジオの意向によって、BVSは短くカットされたものが劇場公開されて、スースクはエアー監督が作業した編集版を捨てて予告制作会社がまるまる作り直したものが劇場公開されました。のちにBVSは監督の意向通りのバージョンがパッケージで発売されましたが、スースクはいまだに幻のカットとして都市伝説のままです。
これら平成28年に公開された2つのDC映画(BVS;SS)はロッテントマトで批評家スコアと一般スコアの両方で不評を買いましたが、公開後になって製作当時の問題点(=スタジオが監督から作品を奪って台無しに改編したこと)が明るみになりました。これによってスタジオは信頼と評判を失い、ファンダムは分裂する(=当初のスナイダー路線を守れ派VSマーベルみたいに楽しく作れ派)という、DCフィルムズ社では史上最大の経営判断ミスになりました。
そしてそこから数年間ズルズル引っ張る形になりました。WBは平成29年のジョスティスリーグが失敗して以来、ユニバース路線をやめると声明を出したり、別の世界線のバットマンを2軸(JOKERとザバ)始めたり、更には30年前の映画の世界線(キートン版)を復活させてユニバースに合流させたりと迷走状態になりました。
ザックが選んだオリジナルキャストが続投していながらビジュアルも世界観も全く異なる映画が次々と公開されたことで、かえってスナイダー支持派の怒りを買うという現象も起きました。
例えるなら、交際が自然消滅した元恋人が自分とソックリな人物と付き合い始めてデートしてるのを見せつけられるとか、更にその結婚式の招待状が贈られてくるような感じですかね。そんなの嫌でしょ。
私はスナイダー映画の熱心なファンですが、ザックの作風に賛否両論が生じるのは避けられないと思っています。こんな言い方をすると失礼に当たるかもしれませんが、ザックの演出やセリフはかなり文芸的で高度なことをしているので「教養がない大人」や「無知な子供」を置き去りにする傾向があります。(※これについては、そもそもヒーロー映画に教養なんて求めるのが正しいのか、という疑問から始めるべき議題なので簡単に答えは出せません)
しかし、ここまで話がこじれたりDCファンがSNSで派閥に分かれて壮絶なバトルをするきっかけを作った責任の多くは間違いなくワーナーにあります。スナイダーは要らないけど、スナイダーが集めたキャストはイケてるから使いたい。そんな虫の良い話が許せるかよ!
このパワーゲームの中心人物と詳細な経緯は過去にもいくつか記事にまとめたので、興味があればそちらを読んでください。不謹慎な言い方になりますが、よくある平凡な映画より、この愚かなスタジオの御家騒動の方がよっぽど面白いです。
🔵その時、DCの親会社が倒れた
子会社であるDCフィルムズ社の不振が親会社WBの経営にどこまで響いたのかは不透明ですが、令和4年4月にWBはディスカバリー社に買収されてワーナー・ブラザース・ディスカバリー社(WBD)に変わりました。
新会社WBDのCEOにはディスカバリー社のデヴィッド・ザスラフが就任し、WBの取締役だったトビー・エメリッヒ、アン・サノフ、そしてウォルター・ハマダは順次退社が決定しました。ザスラフは取り急ぎDCフィルムズを含むWBが抱えていた黒字の見込みが立たないプロジェクト(バットガールなど)を即時停止する損切りを断行し、今後のDCフィルムズのIPを用いたコンテンツの展開に関しては新任CEO(当時は人選未定)に再度計画を作り直させることにしました。
この時はバットガールの主演女優が非白人だったことをして、ザスラフCEOを「白人至上主義だ」と非難する声が日本のSNSでもそれなりに大きく騒がれましたが、実際に起きていたのはシンプルに①新会社が財布の紐を絞った②中止存続に関係なく中規模作品にはもともと非白人がメインの作品が多かった、というだけで、それを「人種差別だ」と曲解して声を上げたグループがバズっただけです。カラクリを詳しく知りたければ私が令和4年8月にまとめた記事を読んでください。
DCフィルムズ新CEOの人選はかなり難航したと思われます。それもそうでしょう、今やDCは燃えさかる火車です。誰が好んで火中の栗を拾うものか。令和4年4月の合併直後から9月ごろまで誰かの名前が挙がっては消える報道が相次ぎました。11月になってようやく映画監督のジェームズ・ガンと映画プロデューサーのピーター・サフランが共同CEOに就任しました。これについては新任が見つからないだけではなくて、『ブラックアダム』までは前任者ウォルター・ハマダに責任を持たせる(もし興行収入が不振だったら押し付ける)という意図があったのかもしれません。
🔵新体制だからこそ目指すべきもの
サフラン&ガンの2名は計画策定とWBD取締役会での承認を取り付けるための期間を数ヶ月確保して、明けて令和5年1月31日(日本時間2月1日)に新体制でのDCフィルムズ社の新ブランド「DCU」の第1章のロードマップを発表しました。
ここで示されたのは端的に言えば、DCEU(ザック・スナイダー)からの完全な脱却です。
平成30年以降、インフィニティウォーの大ヒットでこの世の春を謳歌するMCUとは対照的に、DCEUは新作を発表するたびに、過激なスナイダーカルトと同じく過激なスナイダーアンチがSNSで熾烈で醜い口論を繰り広げていました。原因は本質的にはただ一つ:DCフィルムズがスナイダー選定メンバーを起用したままスナイダーバースではない映画を作り続けてきたからです。
スナイダーバースの顔をしたキャラクターがスナイダーバースと異なることをしていても、頭では理解できても心では納得できるものではありません。過去の人気だけはありがたく使っておいて、ザックのことは排除し続けるような合併前のWBの姿勢も泥棒猫のようで、私も非常に嫌悪しました。
スナイダーバースの顔をしたスナイダーバースでない何かを作り続けても、DCフィルムズは永遠にスナイダーカルトから叩かれ続けるし、永遠にファンの派閥争いは終わりません。であれば、痛みを伴ってでも「もうスナイダーバースとは違います」と明確に示して、まずは余計な争いを避けるのが得策です。
スナイダーバースについては少しでも匂わせる(同じキャストを使う)と、スナイダーバース支持者とそのアンチが寄ってきてバトルを始めます。だからWBDとしてはスナイダーバースの可能性をエルスワールドで確保しつつ、DCU本体ではスナイダーバースと異なるものを作るしか炎上を避ける方法はないでしょう。
従って、エズラフラッシュが6月公開の『ザ・フラッシュ』で終了を迎えるのは必然だし前進でなのです。
🔵本当にスナイダーバースは終了なのか?
一方でスナイダーバースの復活が完全に閉ざされたとも私は考えていません。
これは私の憶測の域を出ませんが、かねてよりジェームズ・ガンの狙いはMoSとの繋がりが曖昧だった新スースクとピースメイカー(*ブラッドスポルトがICU送りにしたスープスは本当にカヴィルなのか?)だけ切り出して、DCEUを終了させることだと思われるからです。そしてこれはエルスワールド(別の世界線)としてのスナイダーバースの可能性は絶たれていないとも解釈できます。
実際問題、ザックの復帰はNetflixとの契約次第だと思われます。
WBがすぐにザックを呼び戻さなかったのは、WBから見れば『離婚した元嫁(ザック)がすでに別の男(ネトフリ)と再婚していたので今更ヨリを戻すことは無理だった』という側面もあったかもしれません。そして今でもザックとNetflixの婚姻関係(事実上の専属契約)は続いています。
しかし当たり前ですが、DCはザックが戻ってくるまでスナイダーバースを作れません。だからそれまでは『スナイダーバースに執着しない人にもウケる映画』を、スナイダーバースに無関係なキャストとキャラクターで展開するしかないのです。これこそがジェームズ・ガンが安全に取り組めるやり方です。
報道では『ブラックアダム』も続編は事実上の打ち切りになりそうな雰囲気ですが、やはりカヴィルスープスを強引に登場させたことがネックになったと言えそうです。ちょうどハマダ体制からサフラン=ガン体制に移行するタイミングに作られた映画だったこともあり不運でしたね。これについては過去にも記事にしており、そちらのコメントで有識者から情報を頂けたので気になる方は参照してください。
とにかく、せっかく親会社が生まれ変わって、DCフィルムズもCEOが変わったので、旧経営陣(ジェフ・ジョーンズ&ウォルター・ハマダ)が作ってしまった「負の資産」は一度清算するべきです。そしてこの生まれ変わりのショックが癒えた頃の、まずは令和7年に『スーパーマン:レガシー』からDCUは再始動すれば良いのです。
地獄のような失敗を経験したDCEUも10年を経て、今やファンも一世代若返るチャンスです。これからヒーロー映画を見始める次世代のティーンがまずはターゲット顧客になるし、古参のDCファンも心穏やかにDCUのフレッシュな再スタートを支援する雰囲気を作れば、マルチバースサーガの不発に喘ぐMCUを尻目に、一気にヒエラルキーを覆せるかもしれません。
そうなればワーナーの資金力に余裕が生まれて、エルスワールドのスナイダーバースが実現しやすくなるかもしれません。
自称DCファンの皆様へ。
団結するなら、今でしょう!
▼そして彼に再び「チャンスの神様」が微笑む?
私には夢があります。
いつか数年後にWBDの資金力に余裕が生まれて、ちょうどザックがNetflixでRebel Moonのプロジェクトに一区切りが付いた頃、それ時こそがスナイダーバース復興のチャンスであります。
そもそも幻の脚本ZSJL2はスナイダーカットから5年後の世界が舞台ですし、ちょうど良い頃合いなのではないでしょうか。主要キャストが全員売れっ子だからスケジュールもそのくらい先じゃないと多分取れないし。年齢的にどうしても顔の皺が気になってきた人も大丈夫、最近のいわゆるディープフェイク技術の進化は目覚ましいものがありますので、アンチエイジングはお任せください。(笑)
因みに、もしスナイダーバース復活の計画がすでに水面下で動いていたとしても、まだまだ発表はできないと思います。「Netflixがザックを手放すか?」それとも「WBDがNetflixへのDCのIPレンタルを認可するか?」どちらかで話が纏まる必要がありますし、どちらを選んでも両社の契約者数や株価に影響を出しそうな話題であり、簡単に話せるものではありません。 (ZSJLとかマジで法務的にどうやってクリアしたのか摩訶不思議レベルだよ;笑)
…と私は今後の展開に期待しているので、
そのためにも新体制DCUには大成功していただきたいですね。
私がDCEUを嫌いになったのはWBが「スナイダーが選んだキャスト」を泥棒して作った映画ばかりになったからです。生まれ変わったWBDが「スナイダーが関与してない新しいキャスト」で新しいDCUの作品群を作ることには何もケチつける理由は無いです。
(結局は、他の会社やシリーズはどうなっても良いからSnyderverseの続きが見られるなら嬉しいよ、といういつもの結論に落ち着くのでした。いやあ、私ってブレないわあ;笑)
了。