イルカショー批判騒動の真相(アバター:ウェイ・オブ・ウォーター)
Twitterなどで一部の人達を騒がせているジェームズ・キャメロン監督のイルカショー批判騒動についてです。
この記事は映画アバター2のストーリーには言及しません。
まずは何があったのか簡潔にまとめておきます。
1)ジェームズ・キャメロンがヴィーガンに目覚める。
→そこから10年近く現在までヴィーガンを続けている。
→環境団体とも仲良くなる。
2)アバター2の日本記者会見で水族館イルカショー。
→特にトラブルなくイベントは大盛況で終了。
3)海外SNSで炎上。
→米国広報がイルカショー部分のみSNSから削除。
4)米国イルカ保護団体がキャメロンに公開質問。
5)キャメロンが炎上してる件にメールで言及。
6)メール受信者がFBでメール本文を一部公開。
注意しておきたいのは、キャメロン本人が直接声明を出したのではなくて、環境団体が公開質問状の形で追及するなど海外で炎上していて、同じタイミングでキャメロンからメールを受信した人がFacebookにスクショを公開した、という流れです。
この経緯を知っていると、温度感がより正確に見えてきます。
読めば分かるのですが、キャメロンは日本を全否定などしていません。
結論から述べると、Twitterで日本の配給会社を糾弾する声や、逆にキャメロンを批判する声、さらには一連の騒動に落胆している声は、いずれも情報の「悪意ある切り取り」か「過剰反応」もしくは「シンプルな嘘」のどれかです。
情報を発信している人達それぞれに人間関係があり、立場があります。
このnoteはどの立場からも一歩引いて冷静な考察に努めますので、全文を読んで理解を深めることをお勧めします。こんなくだらない外野の炎上騒ぎのせいで作品を楽しめなくなるのは非常に勿体無いですから。
最初にイルカ保護団体の主張を、
続けてキャメロンの返信を紹介します。
どちらを先に読むのでも構わないと思います。
▼イルカ保護団体の公開質問状(日本語訳):
2022年12月15日。リック・オバリー氏がジェームス・キャメロン監督への公開質問状を公開しました。
オバリー氏はドキュメンタリー映画『ザ・コーヴ』(2009年)にも出演した、動物権利活動家(animal rights activist)です。
気をつけたいのはオバリー氏の経歴です。彼は今年83歳。日本批判でアカデミー賞を奪った、その界隈では有名な環境活動家のおじいちゃんです。彼は筋金入りの動物愛護者であり、彼の思想は左翼のリベラル思想と親和性が高いという点も頭の片隅に入れておきたい所です。
彼は自身の名前を冠するイルカ保護団体「ドルフィン・プロジェクト」を運営しており、そちらのウェブサイトに公開質問状を掲載しました。
オバリー氏の声明の日本語訳は以下の通り。
●日本語訳
私は12月10日にマクセルアクアパーク品川で開催されたアバターWOWの東京記者会見のビデオを何回か観た。あなたにも観てもらいたい。
小さく貧相なプールに捕獲されてアクロバットを見せるイルカに、私が称賛し尊敬するフィルムメイカー達が拍手を贈るなんて。このビデオは私を叩きのめした。これがフェイクなら良いと願った。しかしこれは事実であり、残酷で望まれざる警鐘だ。
この拍手は私を苛つかせた。ジェームズ・キャメロンだけじゃない。全員が拍手していた。全員が面白がって楽しんでいた。ジョー・ランドー、ゾーイ・サルダナ、サム・ワーシントン、シガニー・ウィーバー、そしてステファン・ラングまで。
どうやら全員が良い時間を過ごしたようだ。
そして同時に、太地町のイルカ虐殺やそれに類する行為に対して抗議する声はほとんど見られない。
イルカショーを生で見ているのはとても知的な人々である。彼らは世界中を旅している。教養もある。中にはヴィーガンもいる。少なくともこのフィルムメイカーのうち何人かは『ザ・コーヴ』を観たことがある。それは2010年のアカデミー賞でベストドキュメンタリー賞を獲得した作品だ。(訳者注記:名指しにこそしないだけでキャメロンのことを言ってるのは明白である)
このアバターWOWの記者会見のビデオを見ることは、完全なる絶望と裏切られた感情を私に残した。これまで私達がやってきた取り組み全てに疑問を投げ掛けるものだった。それは今も続いている。
●解説
この後も公開質問状は続くのですが、オバリー氏の「これまで頑張ってきたのに何故こんな苦しみを受けなければならないのか?」「みんなイルカが虐待されてるってもっと拡散してね!」とファンの感情に訴えるだけで、老人が愚痴を吐いてるだけなので割愛します。気になる人は引用元をご確認ください。
繰り返しになりますが、気をつけたいのはオバリー氏の経歴です。彼は今年83歳。日本批判でアカデミー賞を奪った、その界隈では有名な環境活動家のおじいちゃんです。彼は筋金入りの動物愛護者であり、彼の思想は左翼のリベラル思想と親和性が高いという点も頭の片隅に入れておきたい所です。
要するに、東京の記者会見をビデオで見て、イルカ保護団体の83歳の代表者(動物愛護の世界的権威)が、『キャメロンとアバター制作者への公開質問状』というタイトル記事で「お気持ち」を表明した、というだけです。
オバリー氏の代表作『ザ・コーヴ』で語られた「和歌山県の太地町で続く虐殺的なイルカ漁」の実態について私は詳しくは知りませんが、それが品川の水族館で飼育されているイルカのショーと何の関係があるのか、この公開質問状を読むだけでは全く理解できません。正直、米国のキチガイ老人が「同じ日本」というだけで言い掛かりを付けている、ぶっちゃけオバリー氏または保護団体の売名行為のようにさえ見えます。
冷静に見ると、和歌山県は地形が急峻でほぼ森林なので大きな家畜を飼育できず、まとまったタンパク質を得られるのが海洋生物のイルカだけだったから、昔から狩猟して食する文化があった、というだけの話のように思えますけどね。欧米みたいに広い牧草地が確保できないので、当時の人々はまとまった肉を食べるためにはイルカやクジラを獲るしかなかったのではないかと。
近代以降に科学技術や物流が発達して漁獲の効率が上がりすぎたという事情はあるかもしれません。モーターボートと冷凍保存が発明されたことで一度に大量に漁獲して保存するようになったから、パッと見では「大虐殺」のような恐ろしい作業風景になっただけかもしれない、とも言えます。ただし総じて、やっていることは近代以降の機械化された屠殺場でウシやブタやトリを大量に捌いているのと同じです。
あとは性悪説で考えると、ドキュメンタリー映画をよりショッキングにするために映画制作チームが現地日本人を金で雇って「反抗的な態度」を演技させたり、「海に染料を撒いて真っ赤にした」可能性だってゼロではありません。演出を入れることはドキュメンタリーの精神に反するので、まともな神経の人達ならやるとは考えにくいのですが、それでもあの頭数だけで、入江全体があんなに赤く染まるものかねえ、と思えてなりません。イルカの体積の何十倍何百倍はあろうかという量の海水ですよ。ボートに水揚げされたイルカの体はどれも綺麗ですし、どこからあんなに流血したの?と疑問を持たずにはいられません。
ただ繰り返しておきますが、和歌山の実態がどうであろうと、「品川の水族館のイルカショーとは直接関係ない」ということは変わりません。
▼キャメロンのメール(日本語訳):
メールを公表した人物は2人。
1人は海洋写真家のブライアン・スケリー氏。彼は2021年のナショナル・ジオグラフィックのクジラ特集『Secrets of the Whales』でキャメロン監督と同行しています。
もう1人は、すでに名前を出した2009年のアカデミー賞受賞ドキュメンタリー映画『ザ・コーヴ』の監督を務めた写真家・ドキュメンタリー映画監督であるルイ・シホヨス氏です。
2人が監督した映画のトレイラー(予告編)を見れば、大体どんな思想をお持ちなのか察することができます。
2人は揃ってFacebookに「キャメロンからのメールの本文」のスクショを公開しました。この2人にどういう意図や経緯があって「他人のメールを公開する」という結論になったのか、キャメロン自身が許諾しているのかなどはよく分かりません。(情報いただければ本文に追記します)
(スクショを貼るだけなんて、すごーく意地悪に穿った見方すると偽造メールの可能性もある公開方法ですが、さすがにこれだけ実績がある人達がそんなしょうもない嘘をついてるとは考えにくいでしょう)
以下はキャメロンからのメールの日本語訳です。
●日本語訳1
私達はアバターWOWの竜巻のような宣伝ツアーを複数国を跨いでこなしていた。一つの現場で出演や取材をさっと済ませてはすぐ次の現場に向かうような、本当に1日に20や30もの取材を受けていた。
私が手渡されたのは簡単なスケジュール。そこには1日で6箇所回るうちの最初として、水族館でのファンイベントが書かれていた。私は、モンタレー湾水族館(訳者注記:海洋生物の生態に配慮した展示で知られる;1984年に海藻を自然の姿に近い形で展示した最初の水族館;日本で類似の例を挙げるなら北海道の旭山動物園が「行動展示」に取り組んでいることで有名)のような、素晴らしい科学と配慮されたプログラムなのだと思い描いていた。そこにはイルカショーがあるなんて全く書いてなかった。本当に、イルカショーがあると私が知ったのはステージに歩いて上がった時だった。私達にはもう照明が当たっていたし、客席ではファンが拍手喝采だった。
私はマイクで皮肉を言った。「私はよく分かっていますよ、このイルカ達はショーに出演することに同意してるんですよね」のような感じで。私ははらわた煮え繰り返っていた。でも事を大きくするのは避けたかった。もしかしたらそうすべき(あの場で怒りを公に表明してファンイベントを台無しにすべき)だったのかもしれない。振り返って考えるとね。だが私の本能は常にその土地の人達に向き合うことなんだ。そして、それこそがアバターWOWで言いたいことでもある。意識を変えるとはそういうことだ。
●解説1
まず忙しくて予定を完全には把握していなかったこと。
次にイルカショーがあるとは知らなかったこと。
気づいた時にはもう引き返せる状況じゃなかったこと。
内心では激怒していたこと。
しかし一番大事なのは「異なる他者と向き合う」ことであり、
それこそがアバターWOWで伝えたかったメッセージであること。
これで十分説明になっていると思います。
自分と異なる文化を一方的に自分の色に染めることを「侵略」と言います。そうじゃなくて、相手の違いを理解して尊重して、共に生きる道を探すこと。これはアバター1作目と2作目を共通してキャメロンが主張していることです。
実は、これは日本人には理解しにくいテーマです。異文化交流の経験が圧倒的に乏しいからです。自分では分かったつもりでいても、実はかなり矮小化されたか、もしくは解像度が低いまま理解している可能性が高いです。
キャメロンの発言がどれだけ重みがあるものか正しく理解できるように、少し補足説明をしておきましょう。
日本は島国なので歴史的に国境の外側の他民族から侵攻されたり虐殺されたりする事件がほとんど起きず、優秀な人材に恵まれていたので13世紀の元寇も防衛成功し、15世紀の大航海時代から始まったヨーロッパ諸国の植民地化を何百年も阻止した類稀な国家です。アフリカやチャイナや中南米や東南アジアの島国が軒並み占領されて分割されて搾取されていた一方で、幕府と朝廷がしっかり鎖国を貫いて、20世紀中頃に核兵器で攻撃されるまで対等に渡り合った賢くて強かな国がジャパンなのです。
日本国は2300年以上続く歴史の中で本格的な異文化交流が始まってからせいぜい70年程度しか経っていません。だから他文化と同じ街で暮らすことの難しさを本当の意味で理解してない人が圧倒的多数なのです。これが映画アバターを見ても「自然と共に生きよう」くらいのメッセージしか受信できず「アバターのストーリーは大したことない」「ジブリと同じだ」という薄い感想を持つ日本人が多い理由です。
まあこれは仕方ないことではあります。日本が平和すぎたゆえです。見た目が異なる人種を差別虐殺してきた歴史を私達は持っていないし、学校でもそこまで深くは教えない(進学受験では求められない;臭い物に蓋をする)ので、よほど自分から興味を持って学ぼうとしないと世界と同じ視点を得られにくいのです。私も高校生の頃まではよく分かっていませんでした。
他方で、世界のほとんどの国は、自国が他国に侵略された、または自国が他国を侵略した歴史を持っています。それは神話や伝承として残っていたり、学校で教え込まれ、個人の行動規範を形成します。彼らは日常生活でも、異なる文化的背景に持つ人達が地続きの国境線を超えて移民として流れ込み、日々衝突のストレスを感じながら、過去や現在の悲劇を家庭や学校で見聞きしながら過ごしてきた人達です。彼らにはアバターのストーリーやキャラクターが表現する異文化交流のディティールがもっとよく見えやすいはずです。だからこそ世界各国ではアバターのストーリーに絶賛の声が集まりやすいのです。
閑話休題。
キャメロンはフェア精神を持って相手を理解することに努めるタイプのようですが、もちろん欧州にも自身の文化や価値観を相手に押し付けようとする行動を取る人たちはいます。環境活動家というのは他人にアピールするのが仕事である以上、そのような押しの強い人達が支持を集めて著名になりやすい側面もあります。
日本だとエコ活動や自然環境保護は大昔から当たり前にできているので実感しにくいですが、西欧の価値観だと環境保護の視点はかなり異端で、それを声高に強くアピールしている活動家のことは多数派から頭がおかしい人のように見えているはずです。
そんな環境活動家からの「イルカを虐殺してる国のイルカショーに喜んでるんじゃねえよ」というクレームに対して「そういう気持ちも分かるし、私自身も遺憾だったけれど、違う、そうじゃない、異なる文化の相手と向き合って理解と共生に努めることが私の生きるテーマだし、この映画のメッセージだ」と、柔らかい物腰で回答しているのがキャメロンのメールだったと言えます。
キャメロンのメールは更にこう続けます。
●日本語訳2
映画を観れば分かると思うが、これはクジラを救うことを描いた映画だ。クジラのことを共感と平等をもって描いてる。それは映画の中心にあるメッセージだ。
だから、私はイルカショーで立ち上がって拍手したのは、決してイルカ捕獲に賛成していたからではない。
調査によれば、毎年65万頭のイルカとクジラが、大規模な漁業の船団と事故を起こして死傷している。
だから、もしイルカを本気で助けたいなら、ツナを食べるのを止めるべきだ。実際に、魚を食べることを一切やめてタンパク質は植物由来にすることで、私はこの10年間を過ごしてきた。どうか分かってもらいたい、今回のことは私が予見したり防止したりできる範囲を超えた部分での失敗であり、その点については私は謝罪する。
●解説2
映画を見れば分かるということは、要するに、
「批判してる人達はアバターWOWを観てないでしょ」
「もしくは映画を観ても理解できない残念な人達」
と皮肉を言っていますね。(笑)
そして
「私は本物のヴィーガンだから」
とあまり本質的でないことを言って事態を終着させようとしている意図を感じます。これはキャメロンの本心というよりは、相手の環境活動家の思考レベル(お気持ち)に合わせたメッセージのような気もします。(苦笑)
人類の知性を信じる立場から見れば残念ですが、まともなロジックが通用しない相手には、多少詭弁ぽくなっても良いから、相手の心情に訴えるようなことを言った方が、問題がさっさと解決できるパターンは多いものです。
なお今回引用させてもらった米国Yahoo!ニュースの見出しは「私は怒ってた」と動物虐待を煽るようなタイトルになってます。険しい表情のようにも見える瞬間の写真を使ったサムネイルにも少なからず悪意を感じます。まあ極端なタイトルでページビューを稼ぐメディアが跋扈しているのは国を問わず普遍的事実なのでしょう。(悲)
ちなみにYahooニュースは左寄りのメディアです。よって動物愛護とは相性が良いというのは考慮に入れておいて損はないでしょう。
▼まとめ:
なるべく私見を省いて客観的事実だけ簡潔に書きます。
抗議したのは動物権利活動家。
活動家はイルカショーとイルカ漁を無理に結びつけている。
活動家はイルカ漁の映画で一発当てたことがある83歳の男性。
キャメロンは活動家に直接は回答してない。
共通の知人がキャメロンからのメールをFacebookで公表した。
炎上案件として大々的に扱っているメディアは左寄り。
キャメロンはイルカショーがあることを把握してなかった。
キャメロンは東京で「大人の対応」をした。
キャメロンは東京で内心怒って皮肉を言ったことを認めた。
キャメロンは異なる価値観の相手を認めるポリシーで生きてる。
キャメロンはアバターWOWを見れば自身の考えは伝わると思っていた。
キャメロンは大規模漁業によるイルカとクジラの被害に鑑みて、完全なヴィーガンになった。(他人はともかく自分は殺害に加担しないスタイル)
こんな所でしょうか。
私見としては「イルカショーとイルカ漁を無理に結びつけている」この点が最大の問題点であり、本質が見えにくくなっている理由だと思います。
私は動物愛護や環境保護のために活動すること自体は良いと思いますが、自分達の意見を届けるために、なんとなく外見が似てるバズってる話題に手当たり次第ケンカを売って声を上げるスタイルは好きになれません。それってシンプルに炎上商法ですし、美術館で名画にトマトスープをぶちまけるのと本質的に同じでしょ。
読者の皆様はどう感じられたでしょうか。
私のnoteを読んで、こうした炎上系ニュースを鵜呑みにせず、偏向報道に踊らされないように気をつけながら、自分のアタマで考えてくれる人が少しでも増えることを願います。
了。
PS:
一つ前の記事ではアバターWOWでの捕鯨描写に関する騒動について書きました。そちらでも似たような扇動と炎上が見られます。気になったらどうぞ読んでください。
「ヴィーガンのキャメロンが日本を批判している」というストーリーを書いた方がエンタメ的に人の興味を引くから、メディアやSNSでエコーチェンバーが発動しています。
少しでもアホな炎上が減りますように。
応援よろしくお願いします!