自然にとけ込むような編集を
「最近忙しい?」
友人の徳永雄紀さん(とっくん、と呼んでいます)から、久しぶりに連絡が来た。
手伝ってほしいことがあるそうだ。
聞けば、とっくんは初めてZINE(個人発行の自由な冊子)を出すという。
その編集・校正をわたしに依頼してくれたというわけだ。
テーマは何? と訊くと、
「同姓同名の子に会いに福井まで行った話だよ」
とのこと。
……へえ! じわじわくるね。
想像の斜め上の回答だった。……どういうお話なんだろう? pdfでゲラが届き、目を通す。
ん、ほう。うんうん、え! そっかあ。ぐっ……。
読み終えたあとには、「最初の読者にしてもらえて、光栄」という気持ちになっていた。
さて、このたびのわたしの役割である編集・校正。誤字脱字や事実関係などの確認だけでなく、文字通り「最初の読者」として文章が読みやすいか、ニュアンスや表現に誤解が生まれないかを、チェックする必要もある。
が、ここであまりはりきりすぎてもいけない。
「ここの文章、意味がわからないです」と言われて、大喜びするひとはいない。
「ここ修正しますか?」を提起することは、著者であるとっくんとの関係がいかに良好であっても、“ほどよさ”が必要になる。
***
9月のはじめ、富山県八尾市で開催された「おわら風の盆※」のテレビ中継を観ていた(友人の父方の実家があることや、母が突然行くと宣言し現地に行っていたこともあって)。
その中で、演奏をする地方衆の「胡弓」の名手が登場した。
おわらならではの、哀愁を帯びた調べを奏でるのはこの胡弓だ。
「胡弓は出すぎてはいけません。踊りにも、歌い手や三味線、太鼓の邪魔にならないよう注意をする。秋の夜に鳴くキリギリスのように、自然にとけ込んだ演奏を目指しています」
この名人の言葉にはっとした。
出すぎない、がひとつの芸を確固たるものにしている。
目立たないとか、質素であることは、役割のひとつでもあるんだ。
どこかに爪痕を残さねば……! と鼻息を荒くしていた自分がいたことにも気づけた。
***
「今日何してるの?」
とっくんから連絡が入る。
いよいよ校了するために、最後の原稿チェックをするという。
とっくんの住む三軒茶屋に行き、ともに修正箇所を相談しながら校了することになった。
この日、わたしは出すぎるくらいに、修正の提案をした(結局出すぎてる……)。
けれど、著者がどう思ってこの一文を書いたのかがすぐわかるので、修正をせず「現状ママ」とするところもたくさんあった。
直接会って作業できるのはありがたい。“ほどよさ”を感じやすいから。
なにより、言葉の意味や響きをよく咀嚼して「こうじゃない?」と話し合うのは楽しく、とっても嬉しい時間だった。
徳永雄紀さんによる初のZINE『名前を辿って』は、9月23日(土)に発売開始です。どうぞお楽しみに!
〈お知らせ〉
『名前を辿って』は以下のイベントで初お披露目・販売されます(わたしもどこかで顔を出すつもりです)。
▼SANCHA HAVE A GOOOD MARKET!!!「TOKYO あ~あBOOK FAIR」
9月23日(土)・24日(日)11:00〜17:00
三軒茶屋ふれあい広場(東京都世田谷区太子堂2-17-1三茶PLAYs)