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塾という「場」 2 ー場としての塾をめぐってー 主体・状況・条件

2 塾という「場」

生徒の学びが起こる場である塾は、「場」として、どのような特徴をもっているのでしょうか。

2-1 塾の「場」って?

最初に、これから述べていく「塾」のイメージを皆さんと共有しておきたいと思います。
巷にはあらゆるタイプの「塾」とよばれる教育を担う場所があります。大手有名進学塾や、医歯薬理系に特化した受験塾、地域密着型の補習塾などです。また、授業形態としても、直接指導もあれば、ネット指導もあります。あるいは、学習機会を提供するものとしては、家庭教師という形態もあります。
 
私がここで「塾」といっているものは、進学塾でもあり、学習塾でもある形態です。集団指導も個別指導もします。対象は主に小学校高学年から中・高校生、時に浪人生を含みます。高校大学の受験指導や、資格試験も対応しますし、日常の補習指導もします。また、直接指導もネット指導もします。
要は、ひとつの形態に特化した塾ではなく、いわば、「なんでも屋さん」というイメージです。
 
文科省は生涯学習機会をフォーマル、ノンフォーマル、インフォーマル教育といった3つに分類しています。フォーマル教育が公教育・学校教育です。ノンフォーマル教育は組織化・体系化された学校外教育、インフォーマル教育はそれ以外の学校外での学習機会とされています。
 
この分類にのっとると、これから検討していく「塾」とは、公教育で要請されるものに応える力をつけていく、という点では、ノンフォーマル教育の要素が大きいものです。しかし、日常的経験を通じて知識や態度などを獲得し蓄積する過程、という点では、インフォーマル教育の要素を多分に含むものになっています。これについては、後々お話していくことになります。

2-2 「塾」という場をめぐって

①主体
さて、塾での学びの主体は、もちろん、生徒です。学齢、学力、資質・能力、家庭環境、生活状況等々、個々の生徒はさまざまな背景をおびてやってきます。この点は、公教育とほぼ類似していると思います。
 
②主体をとりまく諸状況・諸条件
つぎに、生徒をとりまく諸々の環境を見ていきたいと思います。
 
なによりも、公教育と大きく異なるところとして、通塾にあたり、
(i)任意である、有償である、受講料の支払いは(ほぼ)保護者が担う
という点があげられます。
塾での学びの主体は生徒ですが、その学びの終始を決める最終的な決定権は、受講料を支払う保護者がもっているといえます。
 
この二重の構造が、塾という場における学びの在り方を照らす際の大きな鍵となります。
 
もうひとつ、公教育との大きな違いと考えられる点として、塾での学習においては、
(ii)主体である生徒が、「一人ひとり、さまざまな人生を、今、生きている」という事実が前面にあらわれてくる
ということです。
 
例をあげてみましょう。
ここに、美術の才能を活かして将来画家になりたい、そのための進学をしたいと考えている中学2年生がいます。彼女は、学校での授業、美術部での部活、受験のための美術教室、そして自宅でのデッサン練習といった忙しい日々を過ごしています。2年生も終わりに近づき、学校の勉強についていくことが難しくなってきたので、塾に通うことにしました。
 
彼女にとっては、塾での勉強は、極端に言ってしまえば、定期テストで満点をとるためのものではありません。もちろん、満点がとれるならばそれにこしたことはありません。内申点や受験において多少有利にはたらくことはあるでしょう。しかし、客観的にみて、美術系の高校を受験するにあたって、彼女に一番求められているのは、受験までに十分な美術的技巧を身につけることです。
当の本人は、今、技巧と学力の両方の向上を求められ、たいへん大きなプレッシャーの中にあります。
 
このような場合、塾という場は何を提供できるのでしょうか?
 
まず、学力アップの応急処置をして、彼女の焦る気持ちを落ち着けること、目先の不安を軽減することです。そして受験まで、必要な学力を維持しながら、ともに過ごす時間を通じて、彼女の人生に今かかっているプレッシャーを解いていくことです。
 
言い換えると、塾という場では、生徒が生きている「今」というまるごとの時間に寄り添うことを通じて、本人の生活を、プレッシャーのより少ない、よりバランスのとれたものに変えていけるように、そのための武器として学力を身につけさせる、ということです。
 
生徒一人ひとりは、まったく異なる独自の世界に生きています。先ほど述べた、主体の在りようによって、プレッシャーのかかり方や強さ、性質はまったく異なりますし、主体の在りよう自体が、塾という場においてはより強く表出されます。
したがって、対応もまた、それぞれに異なってくるということになります。
                             (つづく)

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