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カスハラを考える 第四弾 - カスハラはいつから問題視されるようになった?

シリーズ「カスハラを考える」

●カスハラを考える 第一弾 - 経営視点で考える1人の問題客と999人の良好な顧客関係

●カスハラを考える 第一弾 - 経営に影響を与えるカスハラ問題

●カスハラを考える 第三弾 - カスハラの定義と法律の扱い

 カスハラが社会問題として広く認識され始めたのは2000年代後半から2010年代にかけてである。前述したように、日本ではサービス業や小売業における「お客様は神様です」という文化が長らく根づいていたため、顧客による過剰な要求や不適切な振る舞いが従業員に対して許容されがちだった。そうした時代背景に馴染めない若手従業員のメンタルヘルス問題や職場でのストレスが社会的な関心事となり、労働環境の改善が求められるようになった。パワハラ、セクハラなどと同様にカスハラへの対策も強化されることになる。2010年代に入ると、カスハラについてもメディアでの報道が増え始め、実態調査などが行われるようになったことで問題の深刻さがより広く認識されるようになった。 


 2024年4月に労働組合が発表したカスハラ調査では驚くべき実態が明らかになった。この調査で、約46%の回答者が「2年以内で被害にあった」と回答したのだ。サービス業の組合員に対しての調査であるため全業種にわたる調査と比較すると率は高くなるのは理解できるが、およそ2人に1人は被害にあっていることになる。さらに印象に残っているカスハラについて尋ねると次のような回答だったという。

 ・「暴言」・・・39・8%
 ・「威嚇・脅迫」・・・14・7%
 ・「何回も同じ内容を繰り返すクレーム」・・・13・8%
 ・「長時間拘束」・・・11・1% など 

 カスハラについてはパワハラ、セクハラなどの職場ハラスメントとは異なり、対象が企業外部、それも「お客様」となる点で顕在化されず放置されるケースも多かった。昭和から平成、そして令和へと時代が移りゆくなか、企業の経営環境も大きく変化している。慢性的な人手不足の課題を抱える企業経営においてハラスメント自体への取り組み強化は必然ともいえるが、「お客様は神様」としての意識が根づいてきた消費者側の意識変革も求められてきているといえよう。 

 まず、カスハラ対策を講じる上で企業側が前提にしておかなければならないのは「クレームは合理的かつ正当なお客としての権利行使」であるということである。企業としてもクレームは自分たちでは見えにくい気づきを与えてくれるもの。真摯で誠実な対応を心がけることで企業力を飛躍的に高めることができるはずだ。クレームから生涯顧客を獲得する可能性すらもある(第3章で詳述)。
そう考えると、クレームは企業経営に改善の機会を与えてくれるカンフル剤の役割を果たすともいえよう。
 一方、カスハラは非合理かつ感情的であり、度を超えた個人的願望を要求してくる。対応する個人からすれば、クレームとカスハラの違いは、相手のニュアンスや合理的理由などを勘案していけばおおよそ理解できるかと思う。しかし、繰り返し述べるが、「お客様は神様」の意識が植え付けられた人々は、いざカスハラの事象に直面しても毅然とした対応をとることに不安を感じることもあるだろう。「もしかしたら自分たちに非があるのかもしれない」と思ってしまい、相手の無茶な態度にどうして対応してよいかわからず、ひたすら頭を下げ続けるしかない・・・想像に難くない光景である。 

■カスハラとクレームの違い

 カスハラ防止条例の制定に動いている東京都がその定義づけを2024年春に公開した。ここではカスハラに該当するケース、該当しないケースを事例に沿って説明している。考え方は図1-1をご覧いただきたい。正当なクレームとは顧客の対応が「丁寧さがあり、要求も妥当」である場合を指す。例えば、1000円の商品を購入し、返金を要求したとする。返金の妥当性があり、なおかつ友好的で丁寧な対応をしてくる場合は正当なクレームとして認められることになる。ところが、同じケースで返金を10万円要求してきたり、暴力的で威圧的な言動をしてくる場合はカスハラとして認定させることになる。難しいのは、グレーゾーンで示した部分である。要求する返金額についても「手間賃」や「作業代」などといって商品代金以上を要求してきた際は妥当性を判断するのは難しくなる。また、暴力的で威圧的とどこまで認められるかは当事者でないとわからない部分も多い。実はカスハラ被害の中にはこのようなグレーゾーンも多く含まれるため、企業側としても判断に苦慮することになる。

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