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カスハラを考える 第二弾 - 経営に影響を与えるカスハラ問題
シリーズ「カスハラを考える」
カスハラを考える 第一弾 - 経営視点で考える1人の問題客と999人の良好な顧客関係
経営に影響を与えるカスハラ問題
米ギャラップの「グローバル職場環境調査」(2022年)によると、仕事への熱意や職場への愛着を示す社員の割合が日本は5%と調査した145カ国の中で最下位だった。実はこの年だけではなく、4年連続の横ばい状態で常に世界最低水準が続いているという。日本企業で働く人々はなぜ、こうも熱意や情熱を失ってしまうのだろうか? 私はその原因を日本特有の組織文化にあると見ている。
まず、日本の企業組織を見ると、いまだに旧日本軍の形式主義における「上意下達」の風土を引き継いでいるところが多い。それは、ポジションパワーによる組織の硬直化とハラスメント対応の無視を引き起こしているといえる。例えば、旧日本海軍のハンモック・ナンバーの慣習を見ると、現代の組織風土に脈々と引き継がれていることがわかるはずだ。海軍兵学校出身者は卒業して少尉候補生になった瞬間から、「海軍辞令公報」で成績順に氏名が公表された。この順位を俗に「ハンモック・ナンバー」と呼んだ。最初の任地はおおむねこの成績順に「いい艦」へ配属されることになる。こうなると組織の硬直化は自明の理である。誰もが自身の成績だけを気にするようになり、そこでの順位ばかりを気にする。組織に対して改革の声をあげるものもいなくなる。当然、上官となっても現場を見ることもなく、自身の評価ばかりを気にするようになり、机上の空論ばかりを振り回すようになるのだ。平時はまだしも、有事の際にこの組織は機能しなくなる。
現に、このような者たちが上官となり、突入したのが第二次世界大戦である。現場を知らない上官たちの机上の空論で繰り広げられる戦線で多くの人間の命が奪われていく。例えば、有名な零戦の特攻もそのひとつだ。特攻というのは艦への命中率が5%ほどと非常に低かったという。現場を知る者であれば、この命中率の低さを指摘し、異なる手法を講じることができるだろう。しかし、この上官たちは特攻にゆく若者に「死んでこい」という。当時の日本の空気がそうさせていたというのも、ひとつの事実であろう。しかし、戦線を指揮する上官たちの至上命題を敵の艦をいかに迎撃するかにある。そのことに触れず、先の台詞が口に出ること自体、現場を知らない証左であろう大昔の話ではない。現代の企業組織に照らし合わせてみても、日本特有の風土は引き継がれていると感じる場面にいくつも直面する。
硬直化した組織で役職上位の人間たちも現場を知らない。そんな企業がどうなるかといえば、ハラスメント対策についても現場を見ようとしない。机上の空論ですべてまるめこもうとする。結果、現場で働く社員たちの士気もあがらず、離職率の問題にもつながる。このような対応ではお客様も離れていってしまうだろう。
実はこんな経験をしたことがある。ある老舗の鰻屋に立ち寄ったときのことだ。真夏の炎天下の中、11時30分頃に店に行くとまだ開いていないという。予約もしていないため入れないというので仕方なく「どうしたらいいか?」と男性の店員に聞くと「外で待っててもらうしかないですね」という。炎天下の中、外で待っていろという。さすがに店内のどこかで待たせて欲しいと言うと、男性の店員は首を縦に振らない。この問答を見ていたのか、後ろにいた女性のベテラン店員が慌てて店の中に招き入れてくれ、待たせてもらうことになった。男性の店員は、おそらくマニュアル通りの対応したに過ぎないのだろう。しかし、冒頭でも述べたとおり、店と客はお互いさまの関係であるはずだ。少し機転を利かせれば、女性のベテラン店員と同じ対応ができたのではないかと思う。
企業経営においてカスハラ対応は真摯に取り組まなければならない命題である。放置をすれば人手不足の状況の中、さらなる退職者を増やすことになり、自身の首を絞めることは間違いない。ただし、同時に対応をひとつ間違えると、大切なお客様が離れていき、企業の存続を危ぶむ事態を招く恐れもある。いかに経営陣や役職上位者たちが現場を見て、自社にあった対策に乗りだすかが重要である。そのためにも、自社の組織風土を再度見直すことから始めるべきではないだろうか。机上の空論では大切な社員も顧客も失うことになるだろう。