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シン・仮面ライダーを見た

というわけで見た。
性質上、ネタバレを多く含む。

 シン・ウルトラマンのときにシン・ウルトラマンが庵野作品でなかったことに気づいたあと、シン・仮面ライダーに期待していた。率直な感想を言うと、ウルトラマンよりは面白かったが、しかしウルトラマンと同じ弱点がある作品だなと感じた。良くも悪くも、もとのモチーフを尊重しすぎている。テレビで連続で放送されていた内容そのものではないにしろ、その大枠をあの短時間で表現しようとすると、圧倒的に時間が足りないように感じた。だが、光るものはある映像作品だったと思う。特にアニメ的に処理された実写+VFXは、見どころも多かった。

 仮面ライダーは平成ライダーしか見たことはないが、昭和ライダーも大枠は知っているつもりだった。ショッカーという謎の犯罪者組織が人間を改造して昆虫と人間のキメラを作り出して、それで世界征服を企んでいる。同じように改造人間にされた本郷猛は、正義の心で自我を保って、怪人でありながらショッカーと戦う、みたいなストーリーだと把握している。
つまりヴィランと同じ境遇をしたヒーローだ。
 シン・仮面ライダーもその文脈を踏襲している。冒頭はウルトラマン同様いきなり始まる。そしてヒロインがピンチの状況で変身し、ショッカーをなぎ倒す。
 ここで一つ違うのが、ショッカーをなぎ倒すシーンの迫力だ。庵野が岡本喜八から受け継いだ高速カット割りで進行する戦闘シーンの速度感もさることながら、エヴァンゲリオンのvs参号機戦並の血飛沫が散る。顔面を殴ったらトマトを潰したように血が飛び散るし、腹を殴っても散る。貫いている肝心のところは見えないが、明らかに人を殺しているのがわかる迫力がそこにあった。PG12たる所以だろう。
 これはただのグロ演出ではなく、直後に主人公である仮面ライダー=本郷猛が人を殺してでも人を救うという覚悟を固める、その説得力のために、その暴力性を高めたのだろう。彼が完全に覚悟を決める戦いが終わったあと、逆にその手の演出は途端になりを潜める。

 ストーリーとしても、その後政府の人間が出てくる。昭和ライダーでもFBI捜査官などが出てくるようだが、国家機関が本格的に関わってくるような作品形態ではなかったと思う。そこにバリバリ関わってくるあたりも庵野っぽさがあるなと思った。

 僕なりに考える庵野っぽさの一つに、人間の集団的自衛権の存在を自然と認めているところがあると思う。NERVしかりシン・ゴジラしかり、何かしら脅威が現れた場合、当たり前にそれに組織対処を行うだろうという想像力がある。

 ウルトラマンにはここらへんがなかったなと思う。庵野の良いところは基本的に細部にある。Gods in the Detailという言葉があるが、庵野の作品は基本的に概要にわかりやすくあらさが残るが、細部はこだわり尽くす作品作りだと感じる。細部とはカット割りやカットフレーム、画作り、シチュエーション、戦闘作画(あえてこう表現しよう。シン・仮面ライダーの戦闘シーンも実写的というよりアニメ的だった)、日常描写と非日常のギャップ、その相転移などだ。
 ウルトラマンは彼が監督をしなかったことによりその荒い全体だけが継承されたかなと思う。今作も、細部は良いところも多かったが、全体の構成に難があったかなと思っている。特にヒロインの緑川ルリ子の感情の移り変わりの急さやキャラクターの変遷はかなり急角度で展開していくので感情的についていきづらかったのは事実だ。
 だが最初の変身シーンやVSショッカー戦、仮面ライダーVS仮面ライダーなどの戦闘シーンの演出に関しては優れていたと思う。ただ、そこに挟まるアニメ的特撮的お約束みたいなチープなシーンが、その細部も傷つけてしまったのかなとも思う。
 アニメ的な作品を実写化するときに大事なのは、モチーフを活かしつつも現実的なラインに落とすことなのかなと考えているので、そこが逆に引っ張られて達成できなかったように思うのが残念に感じた。

 パンフレットに、新たに仮面ライダーを作るというより既存の仮面ライダーを知ってもらうみたいな意図が強くあったように読める文章があったので、これらも全部狙ったことだと思うが、僕としてはそういうのに囚われない、オリジナル性のある作品作りをしても良かったんじゃないかと感じた。
 だが、概ね庵野秀明の細部が好きな人間としては、世間の評価とは裏腹に、結構満足出来た内容だった。



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