『ひだまりが聴こえる』1話〜4話(日本/テレビドラマ/2024)
中学卒業時に患った突発性難聴のせいで人と距離を置いて付き合うようになった杉原航平役を中沢元紀、航平と偶然に大学のキャンパス内で出会い、授業補佐のためのノートテイクを引き受けて仲良くなる佐川太一役に小林虎之介。
1話から5話まで見終わったのだが、3話まではあまりBL色はなかったのが、4話から5話でグッとギアが上がった。ドラマを見終わってから感想を書こうとおもっていたけれど、見始めた頃とこれからではドラマの見方がちょっと変わりそうな気がして、途中までの感想を書いてみることにした。
これまでの全体的な感想
私は漫画にしろ小説にしろ原作があるドラマの原作を基本的に読まない視聴者で、また出演者もその作品で初めて知ることが多い。そんなことから、新しいBLドラマを見始め時にはその作品にあまり強い思い入れや期待がないことがほとんどで、1話目では好きか嫌いかあまりよくわからないことも少なくない。でも、このドラマは1話目から好きになった。BLドラマとしてというより、人と人の心の通い合いを描いたじんわりとしみるいいドラマだなぁと感じたから。ドラマの流れやセリフがとても好きだ。
設定などは全く違うのだけれど、タイBLドラマ 『I Told Sunset About You』を見ていた時の気持ちを思い出した。
BLドラマを見る時は、出演者の見た目の組み合わせもかなり自分の中では大事な鍵になる。見た目の組み合わせが好みではないと物語に気持ちが入っていけないこともある。
この二人の写真を見たときは正直それほどピンとくるものはなかったが、物語を見ているうちに、登場人物の性格と見た目がとても合っていたこと、そして二人の演技がとてもいいことで、この物語の世界にスッと入り込めた。
小林虎之介演じる佐川太一の、気さくで明るくまっすぐで、相手の話をしっかり受け止め、また自分の正直な気持ちを表現するところがとても魅力的だった。周囲に心を閉ざした航平のこわばった表情が、太一の言動によって自然とほぐれ、ほっとしたような優しい笑顔とリラックスした話し方になるのを見ていると、航平の心の安らぎを感じ、一緒に自分も救われていくような気分になった。
航平は発病以来、”耳が不自由”という説明書が自分につくことで、周りから一方的に可哀想な人だと思われたり、見当違いの優しさや気遣いを受けたりして、人付き合いに煩わしさを感じるようになり、周囲の人との関わりを避けて過ごしてきた。大学内でも、よかれと思って手話で話しかけてくる手話サークルの子が出てくる。航平は手話は使わないし、わからない。その航平に対して手話を使ってくる。航平はそうした対応を”迷惑だ”と感じている。
そんな航平に太一が投げかける言葉や態度は、他の友人に対するのと変わらない自然なものだった。相手を弱者扱いして気を使いすぎるということはなく、相手が必要とする助けをきさくに提供できる。そんな太一の明るい姿は見ていて私には心地よかった。
太一はそれを身に付けた何かのスキルを生かしてやっているというわけではなく、いい意味でたまたまうまくいったという感じがした。二人は運よく出会うことができた。他の人の声と違って太一のよく通る声は航平にとても届きやすい声だった。太一は航平にたまたま出会って、なんとなく波長があって、航平が困っていることを自分が手伝えそう(実はきちんと講習を受けずに始めたノートテイク自体は、あまりレベルが高いものではなかったようだ)ということでノートテイクをすることになり、お礼に航平から美味しいお弁当をもらって、食べながら一緒に楽しくランチタイムを過ごす。ボランティア活動として”してもらう側”と"してあげる側”という関係ではなく、たまたま仲良くなった友人を手伝うだけの気さくで対等な関係は、航平には嬉しかったのかもしれない。その太一の存在は航平の中でどんどん大きくなり、太一に嫌われたくない、太一を失いたくないと思うようになっていく。
過不足なく人を手助けするのは難しい。障害のある人=可哀そうな人ではないし、外からに見てもわからないのに体や精神がボロボロで手助けやいたわりを必要としている人もいる。そしてその人たちがどんなサポートをどの程度まで必要としているか、どんな性格でどんなプライドを持って生きているかがわからないと、本当は相手を傷つけない的確なサポートというのは難しいのかもしれない。
このドラマを見ているとそんなことも感じさせられた。
この感想を書きながらこの物語がとても好きなことを実感したので、まず各話を簡単にまとめておくことにしました。
1話
二人は偶然キャンパスで出会い、聴覚に障害のある航平のための授業のノートテイクを太一が買ってでる。そのお礼として、航平からお弁当を提供してもらう。二人は授業やランチタイムを共に過ごすことで仲良くなっていく。
周囲と交わらないように、いつも一人でいようとする航平に、太一は正面から明るく近づいていく。いい意味で、遠慮も気遣いもなく、自分の気持ちはそのまま伝える。太一のよく通る声で伝えられる思いは航平の心によく届いた。
太一がちょっと喧嘩早いところは(1話で2回も人を殴っていた・・・)見ていてびっくりしたけど、航平の気持ちになって行動してしまう優しさ、先入観のないまっすぐさ、明るさがとても魅力的に見えた。
太一の声はよく通るので何度も聞き返す必要がなく「佐川君とは話しやすい」と言った航平に、「お前だって話しやすいじゃん」となんの迷いもなく普通に答えた太一。学校内で言いがかりをつけられた航平のために、その相手と喧嘩してしまった太一。聞こえなかったら何度でも聞き返せ、「なんでお前が遠慮するんだよ!聞こえないのはお前のせいじゃないだろ!」と、航平に向かって強く言葉をぶつけた太一。太一の言葉は力強く、そのよく通る声にのって航平の心によく届いた。
ドラマを見ていた私にも、この太一の言葉はズンと響いてきた。
自分の前に突然現れて、明るく正面から向かってくる太一の存在に戸惑う航平が、太一の言葉に強く心を動かされるシーンが、とてもいい。
2話
航平の発病以後の経緯が明らかにされる。
航平は、太一との関係が利害関係で成り立っていると思っている。そう思わなければいけないと思っている。太一は”向こう側”人間で、障害を持つ”そういう人”である自分には”向こう側”に居場所はない。太一に期待してはいけない。ノートテイクと引き換えのお弁当。それがなければ自分と付き合う必要はなく、そんなはずもない。そう思って、そう思おうとして、太一に必要以上に期待しないように、関わらないようにしようとした航平を、太一はそのままにしなかった。キャンパスで声をかけても目があっても知らないふりをした航平に、面と向かって文句を言った。「無視すんな!傷つくだろ!」と。
航平はこれまで腫れ物に触るかのように周りから気を使われることも少なくなかっただろう。そして周囲に気を使われているとわかるほどに、自分が傷ついてもそれを訴えるとこはしにくかっただろう。気を使われることが多い立場だった自分に、太一が「(俺が)傷つくだろ!」と対等な立場で文句を言ってきたことは、ある意味新鮮だったかもしれない。
お弁当目当てで一緒にいるんじゃない!と怒った太一と仲直りした航平の二人が、ランチに向かうときに交わしたラーメンについての会話が可愛かった。
航平はほの暗い一人の静かな部屋に戻って扉を閉めようとした。そこに太一が現れて閉じかけた扉をこじ開け、航平の手首を握って明るい外に引っ張り出した。私にはこの回はそんな風に見えた。
3話
ハンバーグの回。太一の過去が明らかになった。複雑な家庭事情から、太一が両親と離れておじいさんと二人暮らしであることを、航平は知った。
ドラマの最初の方で、お腹がすいた!とぐったりする太一にせがまれて教室でお弁当を食べる二人の、ハンバーグを巡るやり取りが微笑ましい。子供っぽさを隠さない太一に比べると航平は大人っぽい優しい落ち着きがあって、モテる人の雰囲気を醸し出している。
太一の友人の映画サークル活動で知り合った女の子に、喫茶店で航平のことを聞かれた太一。航平の耳が不自由であることを話すと、小説の設定と同じ!手話を使ってみたかったの!と一人盛り上がるその彼女に、太一は声を荒げた。耳が不自由=手話じゃない。航平の聴力の問題は物語を盛り上げるための設定じゃなくて、航平にとって切実な現実の問題だと。
ある日のお弁当は、またハンバーグ。航平の手作りであることを、太一は気付かないまま美味しいと喜んで食べる。この辺のやりとりもいい。航平のセリフにはそれを表す言葉が込められているけれど、太一は”?”という感じで気付かない。航平もあえてそこを伝えず優しく微笑んでいる。
食べながら、ハンバーグにまつわるおじいさんとの思い出をいつになく静かな調子で話す太一。ドラマを見ながらその話に聞き入っていた私は、航平が「え、何?聞こえなかった」と言った時にハッとした。そうだ、そんな静かな声じゃ、航平には聞こえない。
ちょっと照れて、別に大事な話じゃないからいいよ、と言った太一の反応に、私はちょっと寂しさを感じた。でも、その太一に大して航平は語気を強めて気持ちを伝えた。聞こえなかったからもう一度話してほしい。聞こえなかったら何度でも聞き返せって言ったのは太一だよ。その言葉が嬉しかったのに・・・、と。その言葉を聞いて、航平の気持ちを改めて実感した太一は、もう一度航平に同居するおじいさんとハンバーグの思い出を話し始める。
分かり合う事を諦めずに更に心が近づいていくとてもいいシーンだった。
2話で、閉じこもろうとしていたほの暗いへやから航平の手首をグッと掴んでそとに引っ張り出したかのようだった太一のその手を、実は航平もしっかり握り返していたんだなぁ、と感じだ回だった。
4話
互いへの思いやりゆえに誤解が生じる。
テストも終わって夏休みに入り、二人は会うことも少なくなる。航平は母親の勧めで太一を夏祭りに誘う。OKをもらって嬉しそうな航平。
航平の聴力低下が進んでいることが明らかになる。このままでは太一のあの声も聞こえなくなってしまうのか、と航平は絶望的になる。そして病院で偶然あった友人から、太一が新しいアルバイト先のお洒落なカフェで会っていたのが女の子だったことを航平は聞かされる。そんなおしゃれなカフェで誰と会っていたのかと航平が以前太一に尋ねた時、太一ははぐらかして教えてくれなかった。友人によれば、その彼女は実は航平に気があったようだという。何も太一が話してくれなかったことに、航平はショックを受ける。
夏祭りの日は生憎の雨。航平はずぶ濡れのまま太一を待っていた。高架下で雨宿りし、太一に会いたかった気持ちや太一への好意、太一の声が聞こえなくなるかもしれないことへの絶望感を静かに伝えた航平を耐え難い耳鳴りが襲う。
どうして女の子とあっていた事を教えてくれなかったのか、二人で何を話したのか、太一にもう一度聞いても、彼は嫌がって教えてくれなかった。彼女のあんな無神経な反応を、太一が航平に話せるはずがない。二人とも悪くないのに、お互いに傷ついてしまう。
航平は雨に濡れたまま、太一を置いて走り去った。
後日航平は、ノートテイクを別の人に頼む事を決意し、太一にも伝える。
ドラマの1話の冒頭で出てきたシーンにやっと繋がった。どうやってあの場面になるのか、ずっと気になっていた。
雨の中のシーンが、とてもよかった。航平はこの時に太一に「好きだよ」というのだが、太一は特別意識はしない。実を言えば私も航平の「好き」がどの程度熱を帯びているものか、わかっていなかった。航平の中で太一が大切な存在になっていたのはわかったし、やっと巡り合えた掛け替えのないその太一を失うことに怯えていることもわかったけれど、航平の恐怖、絶望を思えばそれは当然のことと思えたから。
航平の思いは、いつから恋に変わっていたのだろう。
5話は大きく物語が動き、正直かなり驚きました。何度か見たけど、もう一度見直したい。
いろいろ書いていたらなんだかすごーく長くなった。
とりあえず今回はここまでに。