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『高良くんと天城くん』(日本/テレビドラマ/2022)

アイドルが主演と聞くと、途端に心理的なハードルが高くなって、見続ける自信がなくなる。このドラマも、始まる前は「おわりまでは見ないかなぁ・・・」と薄々思っていた。でも、BLファンとしては放送されているものはやはり気になる。

漫画が原作のドラマをこの2年くらいいくつか見てきたが、原作と実写化されたものは別物のような気がしていて、私の場合はドラマが気に入ってもあまり原作の漫画をじっくり読むことがない。ドラマが好きになっても自分の中ではそこで完結してしまうことが多く、元がどんなものだったのか気になって漫画をネットでパラパラと拾い読みすることはあるけれど、原作を買ってじっくり読むことはこれまでのところない。もともと漫画やアニメにあまり馴染みがないからかもしれない。

今回この作品はアイドルW主演という高い高いハードルを前に一旦は尻込みしたけれど、どんなお話かは気になって、私にしては珍しくドラマを見る前に原作漫画をネットで少しだけ読んでみた。
そうしたら、原作が結構気にいってしまった。

画風があっさりしていて読みやすく、何よりよかったのはセリフ。
この漫画の魅力は、セリフではないかと思った。私が使わないタイプの日本語が多いのだけれど、読んでいてなんだか心地いいと思えたのが不思議だった。
文字で読んでいるとなんとも心地いい独特な台詞だけれど、これ、実際に人が発したらどんな感じなんだろうかと俄然興味が湧いて、ドラマを見ることにした。


  • 天城くん
    漫画を読んで想像していたよりかな〜り甘めの可愛い感じだったかなぁ・・・。体も華奢で、顔も女の子みたいで、仕草・動作・表情も男子高校生よりずっと幼い感じがして、まるで性別がないかのような、私の予想を遥かに越えるかなり糖度高めの天城くんだった。

  • 高良くん
    原作の高良くんという人は、顔が際立って美形というより、全体的に見てイケていて女子に人気がある”雰囲気イケメン”という設定だったと思う。実写にするには結構難しいのかなぁと思っていた(どうのこうの言ったって、結局主役の人気者は顔が整った美形の子になってしまいがちだと思っている)のだが、ドラマの高良くんは私にはしっくりきた。”顔だけ取り上げたらため息が出るほどの美形というわけではないのに女子の注目を集めるモテ高校生男子”がちゃんと出来上がっていた。
    体温も血圧も低いんじゃないかと思うくらいに普段はテンションの低目の人だが、天城への恋にはとても真っ直ぐで熱く(内心は)、「あ、天城、か、可愛いなぁ・・・」という気持ちを誤魔化さない。優しくて、一生懸命で、遊んでばかりじゃなく英単語テストの勉強もちゃんとする(そこ?)いいヤツなのだ。金髪で、あまり感情を表に出さないポーカーフェイスで、基本テンション低めな態度だからとっつきにくそうだけれど、いいヤツだから周りから人が離れていくことはない。冷静で騒ぎ立てることない言動が多いようだけれど、天城のことになるといつものスマートさは何処へやら、いささか挙動不審になることも少なくなく、時には失態を香取くん(天城の親友)に叱られて反省するのがいい。クールに見えながらも言動が面白い人物なのだが、実際に人が演じるのは結構難しいのかなぁと思っていたら、佐藤新くんという人がいい具合に演じていた。

    顔が云々と書いたが、誤解のないように改めていうと、見た目がよくないというわけではない。田中と中学時代に知り合ったときの回想シーンを見たら、まだ髪を染めていないサラサラ黒髪の高良は結構美少年の雰囲気だった。
    雰囲気って大事なんだな。

  • 田中
    高良の友達。学校中の人気者、モテ男らしいけどチャラい。でも、男女問わず人が傷つきそうな時に彼なりの方法で手を差し伸べる優しさがある。天城と高良のことを知ってちょっとショックを受けていた(あんな場面に教室ででくわしたら、そりゃあなた、びっくりしますよね・・・)が、大事な友達の恋なので、ちゃんと受け入れて応援する優しさを持っていた。
    ドラマの田中は、あまり違和感なく見られてよかった。

  • 香取
    天城の親友・心の友(赤毛のアンか!)。キャラクターがいいなぁと原作を読んでいて思った。早くから高良と天城の関係に気付いて、優しく見守っている。時々高良から天城のことで相談を受けて優しくアドバイスしたり、本気で怒ったり、時にはただただ聞き役に徹したり、実に頼りになる。天城からも高良のことで相談を受け、二人の橋渡し役になることも多い。
    ドラマの中の香取くんは、性別年齢不詳的な天城と並ぶとなかなか同い年には見えなかった(高校生というよりクラス担任の落ち着き)のだけど、見た目がなんとも優しそうだったし、もともとのキャラクター設定がとてもいいので、見ていてやはり嫌になることはなかった。
    二人への心遣いや対応の優しさと厳しさが、もはや親(田中にも突っ込まれてたな)。

  • 台詞
    見比べたわけではないけれど、漫画の中のセリフがかなりそのままの形でドラマの中に盛り込まれていた印象だった。
    人が実際に発するのを聞くと、はじめはちょっとぎこちない感じもしたけれど、やはりこの独特の言い回しを変えてしまってはこの作品の良さが半減してしまいかねないから、台詞が原作から離れなかったのはよかった。ドラマを見ながら、やはりこの作品の良さはこの台詞だなぁと実感した。
    素敵な決め台詞がたくさんあるというより、何気ない会話がなんとなくいいのだ。力の入り過ぎない会話で、さまざまな想いが表現されている。若者言葉の会話の間に結構でてくる敬語の会話もいい。

  • 友人関係
    この作品を見ていて台詞の他にもう一ついいなぁと思ったのは、普段はあまり交わらない違うグループの人たちが、個人的にはちゃんと会話をしたりするところ。いつもの決まった仲間としか交流しないという排他的な感じがない。
    例えば田中と高良はモテるイケメングループ(いわゆる”一軍”というのか)で、教室でも廊下でも女子が放っておかない感じだが、天城や香取は全く彼らとは別グループ。でも。高良は天城問題が発生するとつい香取パパに相談し、信頼しているので基本的には香取パパに逆らうようなことはない。アドバイスを聞き入れ、叱られれば反省もする。そんな香取と高良の信頼関係もいい感じだった。

    高良とのことが田中に知られてからは、高良のことで田中と天城がさしで話す場面もあった。田中は自他ともに認める”一軍”男子だけれど上から目線ということもなく、フラットな立ち位置で天城と田中は話をする。

    普段つるむ仲間はいるけれど、その枠外の人間を排除せず時にさしで語り合う感じがとてもいい。理想的。


大手アイドル事務所のアイドルW主演でどうするのかなぁと思っていたキスシーンも、下手に回避することなくとても綺麗だった。

見た目や態度はいろいろだけど、どの登場人物も人へのおもいやりを持ち、自分なりのやり方で人に寄り添う心の優しさがあった。そんな彼らによる独特のセリフまわしでのやりとりがどんどんクセになり、気づけば最終回だった。


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