『I Promised You The Moon』2021/タイ/テレビドラマ
だいぶ前から少しずつ書いていたこの記事。なかなか書き上がらず気づけば師走。危うく年を越すところだった。
2023年1月から放送された『I Told Sunset About You』に引き続いて、2023年4月からテレビ放送で視聴した。ITSAYにはかなり泣かされたが、パート2のこちらもとてもよかった。
ITSAYではプーケットを舞台に少年時代から高校生までのテーとオーエウの関係を描いていた。『I Promised You The Moon』では故郷を離れ首都バンコクで大学生活を始めた二人が、それぞれの将来に進む姿が描かれていた。
監督が替わった
パート1のITSAYは、リゾート地として有名でもある風光明美なプーケットが舞台だったこともあり、切り取ってポスターや絵はがきにしたくなるような印象的なシーンがいくつもあった。パート2のIPYTMでは映像自体がそれだけでも絵になるような美しいシーンはITSAYほどはなかったように思う(とはいえ、1話の水族館のシーンは綺麗だったし、印象的なシーンはもちろんたくさんあった)。これは舞台が都会のバンコクに変わったせいだったり、またパート1と2は監督が違うので(ITSAYはナルベート・グーノー監督でIPYTMはトッサポーン・リーアントーン監督)、それぞれの監督の持ち味なのかもしれない。ITSAYもIPYTMもどちらもよくできていて、二人の監督のどちらがいいということではない。人気を博したITSAYとはまた違う、リーアントーン監督の作り出したストーリーに大きな魅力を感じた。
地方から出てきた二人のエピソードに泣けてしまった
IPYTMには、親元を離れて進学した若者が経験する様々な出来事が生き生きと描かれていた。国や文化が違っても多くの人が共感できるそうしたエピソードを丁寧に描いてドラマに盛り込んだのは、パート1の映像美を生み出したグーノー監督とは違う、リーアントーン監督の持ち味なのかなと感じた。
恋人同士になったテーとオーエウは、都会バンコクに出て別々の大学で学生生活を始める。地方から都会に出てきた経験のある人なら、おそらく共感できるようなエピソード、シーンがいくつもあってどれも見ていると涙が出てしまった。
新入生たちの中には地元バンコク育ちの学生達も多くいて、彼らは入学当初からすでに知り合いがいたりする。同じ高校の友達、昔からの知り合いなど、すでに出来上がったコミュニティをいくつも持っている。そしてそこには新顔・よそ者はなかなか入り込めない。まずは友達を作ろうと初対面のクラスメイトに思い切って声をかけても、「今から高校時代の仲間と食事なの、ごめんね」という感じで優しく断られたりするシーンは、遠い昔の自分の学生時代を思い出してしまった。
オーエウが入学早々に校内のテーブルに一人で座っていた青年に思い切って声をかけたシーンも、悲しくて、でもとてもいいシーンだった。
相席をしていいかとオーエウがその青年に聞くと、どうぞと言ってくれる。一人でいたこの青年と友達になれたらいいなぁと思っていると、実は彼はここで地元の仲間達と待ち合わせており、その仲間がガヤガヤと集まってきた。古くからの仲間同士の中に急に放り込まれて疎外感を感じるオーエウは、それでも気を取り直して自己紹介をするのだが、自分の名前の由来を紹介しながらホームシックで泣き出してしまうのだ。オーエウっていうのは故郷のプーケットのかき氷で、赤いシロップがかかっていてね・・・と説明しながら涙がこみ上げてくる。そして最後に「美味しいよ」と言って泣いてしまう。
プーケットはタイに疎い私でさえ聞いたことがあり、タイ国内では”超”がつく有名なリゾート地だと思うが、同じ国内とはいえバンコク育ちの彼らには有名リゾート地の名物かき氷など馴染みがなく、”オーエウ”という単語も初耳で言いにくそうにしており、そんなところもきっとオーエウはaway感を感じたのだろう。ありきたりな「美味しいよ」という言葉とともにボロボロと涙を流したオーエウを見て、たった今オーエウと知り合ったばかりの青年達は顔を見合わせて一瞬困惑するが、地方から出てきた彼の心細さを察して、優しく慰めてくれる。
「美味しいよ」という明るいセリフを言いながらボロボロと泣いたPPの演技に、私も泣かされた。
オーエウは学部の違う彼らと仲良くなり、一緒に過ごすようになる。そしてテーのことも彼らに紹介する。ある日、いつもの気軽な集まりの席にテーも呼ばれるのだが、テーにとっては他大学で学ぶ都会育ちのよく知らない青年達なわけで、ちょっと洗練された明るい軽さにも馴染めず、演劇に関心がない彼らとの会話もどこかぎこちなくなる。この辺のテーの気持ちの描き方も、オーエウには見せないよそ行きな硬い表情を時々みせるビウキンの演技もとてもよかった。
オーエウが彼らとつるむのをテーはあまりよく思っていない。オーエウが一時のノリで友人の真似をして手首の内側に小さな刺青をしたことを知って、軽々しくそんなことをしたオーエウの行動にテー は不機嫌になる(でもその刺青が”お茶の入った湯呑み”で、お茶がテーを表しているのですって。「喜んでくれると思ったのに・・・」と言ってしょんぼりするオーエウ、かわいすぎる・・・)。このシーンの二人のやりとりもよかった。
こんな風に、地方から都会に出て行った人間の心細さ、同郷出身の友人との強いつながりなどのエピソードは、経験したことのある者ならジーンとしてしまうほど上手く描かれていた。
二人の関係が兄弟のよう
パート1では最後に二人はやっと恋人になり、パート2ではバンコクで恋人同士として過ごす。バンコクに来てすぐにデートするシーンは幸せそうで二人がとても可愛かった。テーのお母さんからオーエウへの伝言のエピソードは泣けたし、人目を気にするオーエウにテーが躊躇なく優しくキスする水族館のシーンはとても美しかった。
確かに二人は恋愛関係にあるのだけれど、ドラマの中では二人のセクシュアルな描写というのはほぼなく、都会育ちの友人との付き合いの中で次第に行動や考え方や見た目が変わっていくオーエウを心配し、たしなめ、慰めたりする様は、同郷から一緒に都会に出てきた兄弟とか従兄弟の雰囲気さえあった。二人がぴったりと寄り添っていてもあまりセクシュアルな雰囲気を感じさせない(少なくとも私には)場面を見ると、二人の関係性の土台が”大親友”だということを実感させられた。
例えばドラマの中で、せっかく第一志望校の芸術学部に合格できたのに、入学して数ヶ月で転部をしたいとオーエウが言い出す場面がそうだった。この時二人はオーエウが一人暮らしをしているマンションで水着(?)を着て入浴中。夕陽に照らされた浴室のバスタブに腰かけたオーエウがバスタブに横たわるテーの髪を洗ってあげたりしているが、海の近くで生まれ育った従兄弟同士が海を懐かしんで水遊びしてるみたいな感じで、不思議とセクシュアルな雰囲気はあまり感じなかった。テーのカッコつけていないリラックスした表情も理由かもしれない。しばらくして、オーエウがいつもつるんでいる仲間達と同じ学部に転部すると言い出し、二人で一緒に演劇の道を極めるつもりだったテー はそのことを嗜める。二人は言い争いになり、その後テーはなんとかオーエウの考えを受け入れようと「やってみればいい」というのだが、二人の間には溝ができ始める。入浴シーンでもセクシュアルなものになっていないことが印象的だった。
もう一つ今思い浮かぶのは前にも書いたオーエウの刺青発覚シーン。新しくできた仲間の真似をして、自分も手首の内側に恋人”テー”を表すお茶の入った湯飲みの刺青をしてもらったオーエウ。テーはこれを見て、どうしてやる前に自分に相談しなかったのか、プーケットのご両親に叱られるとオーエウを責める。オーエウはテーが喜んでくれると思ったのに、としょんぼり。これは二人が密着しているわけではないし喧嘩しているシーンなのでセクシュアルな雰囲気がなくても当然だが、二人が恋人同士というより”田舎から都会に出てきて支え合っている兄弟か従兄弟”のような感じが出ていて好きなシーンだった。
大好きな作品なので文章が思ったより長くなってしまった。もう少し書きたいので続きは感想2に書く予定です。