『晩餐ブルース』(日本/テレビドラマ/2025)第1話を観て
第1話を見た感想としては、「これはすごくいい!」だった。
なんだかとても気に入って何度も見直していたら、感想を書きたくなりました。
優しいブロマンスドラマ
「やっぱり恋愛じゃないブロマンスっていい!」という波が時々私の中で湧き上がる。昨年秋から年末あたりにかけて見たいくつかのドラマの影響で、またまたそのブロマンス熱がこのところ高まっていた。このドラマの放送予定を見つけたとき、「これはブロマンスドラマだな」と思い、放送をとても楽しみに待っていた。
第1話を見たところ、現実生活の中に存在するつらさをうまく描いており、優しく落ち着いた雰囲気で、思った以上にとてもよかった。
壊れそうな優太に晩活(晩餐活動)を提案した耕助
優太はテレビ局のドラマディレクターで、仕事に忙殺されている。意見がぶつかり合う現場でスムーズに事が運ぶように調整役に回ることも多く、本来の自分の仕事以外の業務も押し付けられ、人気のなくなった夜のオフィスで「遅くまで働くなよ」と言った上司はその舌の根も乾かぬうちに新企画案提出の催促して帰っていく。精神的にもストレスが溜まっているはずが、なぜか彼は取り乱すこともほとんどなく、基本的には静かな印象だった。
深夜の自室に戻った優太が暗い部屋でベッドに倒れこんで、スマホで自分のやることリストに追加項目を書きながら、表情は変わらずにただ涙があふれているシーンを見て、「ああ、この人は壊れてしまう」と感じてとてもつらくなった。静かにしているのではなく、精神状態がぎりぎりのところまできて騒ぎ立てる気力もなくなってしまっていた。
疲れ果て、でもその疲れ果てた状態に抗う気力もなくなっていた優太のもとに、高校時代の友人蒔田葵から ”久しぶりに飲もう” というメールが届いた。3年ぶりの飲み会の席で、もう一人の旧友佐藤耕助にも再会する。葵はコンビニ店長、耕助は人気レストランの料理人だ。
二人に離婚を報告して酔いつぶれた葵をタクシーで送る耕助が、別れ際優太に ”飲んでいるときに生ハム二枚とアスパラ1本しか食べていなかった。帰ったらちゃんとご飯食べなね” と言った。優太はそう言われて初めて自分がほとんど食べていなかったことを認識したように見えた。きっといつも食事のことなど気にする余裕がなかったし、それを気に留めてくれる人もいなかったのだ。
人は食べなければ死んでしまう。食事は何より大事なことだとわかっているのに、仕事の忙しさや自分の都合でまず省略したり、簡略化したり、軽視してしまったりする。一人で暮らしているとなおさらだ。
酔った葵を連れてタクシーに乗り込んだ耕助は、居酒屋での優太を思い出し「かすみ草みたいだったな・・・」とつぶやく。友人をかすみ草に例えるなんてなんて優しい物語なのだろうと思ったが、何か理由があるようだった。
ある日の仕事の帰り道、疲れ果てて歩いていた優太に耕助から ”もう晩御飯は食べたか?” と夕食に誘う電話が入り、優太は耕助の自宅を訪れる。料理人である耕助は手慣れた様子で夕食を作ってくれた。優太は台所の様子が気になりながらも、おとなしく食卓で待っていた。
優太と耕助も3年ほど会っていなかったので、旧友とはいえ互いに少しまだ遠慮がちなところがあるようにも感じた。この距離感も優しくていいかんじだった。
優太は耕助が作ってくれたカレーを食べた。おいしい。そして温かい。食べているうちに、なぜか優太のほほを涙が伝った。自分で驚いて「あれ、ちょっと待って、なんだこれ・・・。最近、感情がもう・・・。」と照れ笑いしながらそれをぬぐった。耕助はそっとティッシュを渡し、とても静かに「何かあったの?」と聞いた。
優太の ”どうなんだろう。何かあったのか、何もないのか、もう何もわからない” というセリフは、自分にも記憶がある経験でよくわかった。仕事に忙殺される日々の中、もしくはつらい気持ちの中でずっと暮らしていると、感覚がマヒしてくる。その日を過ごすのが精いっぱいで、今の状況が何なのか、これをどう改善したらいいのかを落ち着いて考えてみる余裕などなくなってしまう。麻痺しながらも、心はそれを受け入れているわけではないので、どんどん追い詰められていく。
そんなつらそうな優太を見て、耕助は晩餐活動=晩活を提案する。ときどきこうして家で夕食を共にしようと。
食後に食器を洗う二人。優太の打ち明け話を、耕助はじっと聞いてくれる。
優太はいいやつだよ。優太はやさしい。優太がいなければ自分は料理人になっていなかったと、耕助は話す。
この辺の二人のやりとりがとても和やかですきだった。
俳優、セリフ、音楽・・・全てがじんわりとしみる
優太はテレビドラマディレクター、耕助は有名レストランの料理人。人がうらやむような仕事だが、それぞれに問題を抱えていた。久しぶりに再会したもう一人の蒔田葵はコンビニ店長で、飲み会で ”離婚” を報告した。3年の間に、3人それぞれ状況は変わっていた。
この3人を演じている井之脇海、金子大地、草川拓弥の雰囲気もとてもいい。派手さがなく落ち着いていて、優しい感じで、人物たちがあまり現実離れしていないので、ドラマの世界にすっと入っていけた。優太と耕助が少ないセリフのやり取りのなかで繊細な心の動きをよく表現している。
セリフはとても自然で、たとえ具体的に言葉で悩みを説明できなくても、その辛さや感情の不安定さが伝わってきた。いい脚本だと感じたし、それを演技で表現できる俳優たちもいい。
オープニングの映像・歌ともに明るくて楽しげですごくいいと思ったが、エンディングはまた違ってとてもグッとくる泣きたくなるような映像と歌だった。どちらもとても素敵だ。
そういえば、プロデューサーに『チェリまほ』の本間かなみさんのお名前もあったな。
まだ1話しか見ていないが、ドラマ全体がとてもよい印象で、いい作品に出会えた気がしている。
2話以降も楽しみだ。