『ひだまりが聴こえる』9話(日本/テレビドラマ/2024)
中学卒業時に患った突発性難聴のせいで人と距離を置いて付き合うようになった杉原航平役を中沢元紀、航平と偶然に大学のキャンパス内で出会い、授業補佐のためのノートテイクを引き受けて仲良くなる佐川太一役に小林虎之介。
このドラマ、全12話とのこと。あと3話ある。3話もあったら一体どういう展開になるのか、気が気ではない。そして、あと3話しかない、と思うと寂しい。お互い大切に想っているのに二人の気持ちが噛み合わないのを見るのが辛いけど、このドラマが終わるのも辛い。
中沢くんと虎之介くんは『下克上球児』
という話は、『ひだまり・・・』の情報をチェックした時に知った。『下克上球児』はテレビ放送時に見そびれて、とても残念に思っていた作品だったが、そこにこの二人が出ていたと知って驚いた。それも中沢くんピッチャー・虎之介くんキャッチャーのバッテリー役だったときいて、今一層見たくなっている。
世間に広く知られるための大きなチャンスとしてBLドラマ出演に前向きなあまたの若手俳優がいる中で、TBSの日曜劇場で高校球児のバッテリー役だった二人をBLドラマのW主演に据えるというのも、なかなか面白い人選をしたものだと思う。
『下克上球児』の頃の二人がどんな風だったか見たくて、ちょっと昔の動画を検索したら・・・、なにこれ!可愛いっ!
あ〜、やっぱり『下克上球児』見たい〜!
<あらすじ>
新学年の授業が始まり、太一は航平のノートテイクを再開していた。スキルはまだまだ足りないところもあるが、以前よりはかなり上達していた。
航平は今後のために社労士資格取得の勉強をし始めており、ヤスは学生映画祭で金賞を受賞して将来の映画の仕事に対して意欲を燃やす。太一の周りに少しずつ将来の進路について考える空気が流れ始めていた。
マヤはキャンパスで航平と過ごすことが少なくなかったが、航平が太一のことを話す様子を見て、航平の太一に対する特別な気持ちに気づき始める。
太一は街で偶然ある男と出会う。犀清史郎というその男性は、手話関連ビジネスを展開する会社を経営していた。犀の考え方や彼のビジネスの方向性に疑問を投げかけた太一の強い言葉と熱い心に犀は強くひかれ、自分の会社で働いてみないかと誘う。
<感想>
先週の予告を見た時に「俺が大学辞めるって言ったらどうする?」と、太一が航平にきくシーンが入っていた気がしたんだけれど、今回はそこまでお話は進まなかった。あれ、私の見間違い?「大学辞めるの?!ノートテイクどうするの?!二人離れ離れになるの?!」ってすごく悲しくなっていたのだが、今回はその件は出なかった。謎・・・。やはり私の見間違いなのか・・・。どうやらその問いかけは来週10話らしい。
寂しい太一と自信のない航平
航平は相変わらず太一が大好きだった。そのことが、話すそぶりに知らず知らずに現れて、マヤも何か感じているようだった。
航平が感じているよりも、太一も航平のことを大切に想っていると見えるが、航平はそうは感じていないのが歯痒い。自分は太一の迷惑になっているのではないか、自分のせいで太一を苦しめたくない、といつも自分に自信がなく、少しでも自分のことで太一が辛そうだと身を引こうとする。その控えめな心が、見ている私を不安にする。
太一という人は、思春期に両親から拒絶され、祖父と暮らさざるをえなかったという辛い経験をしている。今は明るさを取り戻しているが、その心の傷はそう簡単に消えるものではないだろう。太一が祖父と暮らす自宅で一人でいるシーンが時々あるが、昔ながらの薄暗さもある家屋でのシーンを見る時、彼の癒されていない心の寂しさを感じてしまう。
一方、航平は聴覚に障害はあるものの、家庭は円満で、経済的にも不安がなく、容姿も学業成績もよく、かなり恵まれた条件を備えている。聴覚に障害をおってから人との付き合いに悩むようになり自信を失ったが、太一が持っていないものをたくさん兼ね備えている人。
でも、航平が身を引こうとするシーンを見ると、航平は太一の心の寂しさを感じ取れていないのかもしれないと思うことがある。今や太一にとって航平は”自分を必要としてくれる大切な人”になっていると思うのだが、航平にそれが伝わっていない感じがしてもどかしい。
太一にとっての航平の料理
最近の数話を見ながら、太一にとっての航平が提供してくれる食事の意味合いが、自分の中で変わってきた。はじめの頃は、空腹な太一と航平をつないでくれるものだと思っていたが、ドラマをずっと見てきて、航平が太一のために用意してくれる愛情のこもった美しくて美味しいお料理は、両親と離れて暮らしてきた太一が心のどこかでずっと求めていてなかなか手に入らなかったものだったのではないかと感じるようになった。特に、航平が初めて自分のために作ってくれたハンバーグや、母親のお料理教室の手伝いで作ってどうしても太一に食べて欲しくて家まで届けてくれた航平の手料理の数々は、太一への特別な思いが詰まった、まさに愛情のこもったお料理。航平は日々母親からそうした食事を提供されて当たり前に思っているが、太一にはとても得難いものなのだ。航平と一緒に食べる食事は、単に太一の空腹を満たすものではなくて、それ以上に、心にできた隙間を埋めてくれる大切なものなのだろう。
これはBLか?
5話でキスシーンがあって、急にBLモードに入ったなぁと思って今まで見てきたのだけれど、その後この9話まで見てきて、これはBLという括りに入る物語なのだろうか?と思うようになった。じゃあBLって何よ、キスシーンの有無?ベッドシーンがないとだめ?という話になると、これはそんなに簡単には私の中で答えは出ないのだが、世間で”BLドラマ”と言われてイメージするものとは、何かちょっと違うかもなぁ・・・と最近感じている。
前回の感想で、太一と航平はおそらく同じ気持ちだろうと書いたけれど、なんとなくそれもちょっと違うのかもしれないと感じている。航平は太一のことが好きなのだけれど、太一の航平に対する気持ちは、航平が感じている恋情とはちょっと違うような気がしてきた。太一が航平について誰かに話す時、その言葉は恋というより、大切な守ってあげたい人をいたわるような言葉が多い。暗闇で立ち尽くしている大切な人を明るみに引っ張り出し、置き去りにしないで一緒に手をとって歩いていこうとするような、強さと思いやりに満ちた言葉。二人の心の強い結びつきや求め合いは感じるが、ではそれが恋愛かと言われると、ちょっと違うような気がしている。
航平にしてみても、確かに友情より強い好意は抱いているようだが、誰にも邪魔されず二人で互いを思いながら一緒に過ごせる幸せな時間を失いたくないという感じで、 ”BLドラマ”でよく描かれるような異性カップルと同様のお付き合いをしたいと思っている感じはあまりない。
このドラマの紹介に”ヒューマンラブストーリー”という言葉がよく使われているのを見て、正直それがどんなんものを指しているのかよくわからなかったのだけれど、 ”ボーイズラブというよりヒューマンラブ” と言われると、確かにそんな言葉の方がしっくりくるような気も、今はしてきた。あるいは、BLというよりブロマンス。
このドラマを見始めの頃、”あまりBLっぽくないので、このままBLでなくてもいい”というようなことを書いたが、今またそんな気持ちになっている。
ただ、お互いに相手をあんなにも大切に思っているのだから、離れ離れにはならないでほしいなぁ・・・。10話で太一が大学辞めるとかなんとか言うようでどうなるのかわからないけど、お互いを思いやりすぎたあまり二人別々の道を歩く選択をする、なんてなりませんように・・・。