『未成年〜未熟な俺たちは不器用に進行中〜』
日本(原作:韓国)/テレビドラマ/2024~2025
このドラマはとても好きだった。
そのせいか書いてみたらとても長い文章になりました。
原作は韓国のコミックとのこと。
これまで韓国のものは見た記憶がなく、設定は日本に置き換えられているとのことだったが、どんな風かと楽しみにしていた。
本島純政演じる水無瀬仁と上村謙信演じる蛭川晴喜の物語。
暗く冷たく悲しく美しくしっとりした物語
原作が韓国ものと聞いて見方にフィルターがかかっているせいかもしれないけれど、今まで見た日本のBL作品とはちょっと違った空気が感じられ、とても気に入って毎週楽しみにしながら最後まで見終えた。
主演の二人の演技力には前半では正直すこし物足りなさも感じたが、今回はこのドラマの暗くて儚い雰囲気にいい感じにマッチしていた気がする。もしかしたら、このドラマの独特の雰囲気を作るためにあえて演技をつけすぎないままでいくという監督の演出だったのだろうか。物語が進むにつれて二人の演技も感情豊かで人の心に訴えるような強さを持つようになっていった。7話で寄り添いあいながら二人が泣いているのは本当に見ていてつらかった。
両親が不仲な家庭にそれぞれ育った水無瀬仁と蛭川晴喜の二人。晴喜の母親は家を去り、すでに新しい家庭をもって子供も生まれていた。晴喜は二人暮らしの父からひどい暴力を受けていたが、離れて暮らす母親にそのことは打ち明けられずにいた。そんな暗く辛い現実的な話が、物語の前半では二人の熱すぎないフワッとした演技によって現実味が薄れるような感じがして、不思議な雰囲気に仕上がっていた。その後二人が追い詰められていくにしたがって、心の叫び、感情の発露が多くなり、さらに悲しく美しい物語になっていった。
水無瀬仁の両親も不仲で、別居中。その後離婚した。映画監督の父と会う機会もあまりなく、一緒に暮らす母親は仕事で不在がち。たまに帰ってきても、ゆっくり語り合う暇もなかった。
水無瀬仁は見た目は可愛いのだが、この母親からの忠告に従って厄介ごとに関わりたくないと考えている冷めた感じの子で、はじめはあまり感情を表に出さなかった。表情だけでなく、喋り方もあまり抑揚がなかった。だからこそ時々ちょっとした気持ちの動揺を隠しきれないシーンがとても印象的だった。
晴喜との距離が近づくに連れて仁の内面が見えてくると、繊細で、実は心ぼそくて、かわいいところもあり、とても優しい男の子にみえた。言葉遣いが少年だからなのか、化粧っ気がないからなのか、表情や雰囲気が暗いせいなのか、体はとても華奢で目の大きい可愛い顔の割には女子っぽくなりすぎず、少年らしくみえた。
蛭川晴喜を演じていたのは上村謙信。最初は結構な不良なのかと思ってみていたら、それほどすごい不良少年ではなかったのは意外だった。
上村謙信は体格も顔もしっかり仕上がっている感じで水無瀬仁と同い年の高校生には見えなかったが、蛭川晴喜の言動が率直で無邪気で子供っぽさがあったことと、演じていた上村謙信のちょっと舌足らずなしゃべり方が相まって、蛭川はどこか愛嬌があってだんだんかわいく見えてきた。”わんこ系男子”みたいな表現があるが、上村謙信の蛭川は ”ハートは子犬の大型犬” といった感じで、私はいままであまりみたことのないタイプだった。
主演の二人には役者としてひかれたというより、この物語の世界にとてもあっており、この物語の中の二人として非常によかった思う。この二人でなければ、暗く冷たく悲しく美しいこの物語の不思議な空気は作れなかったかもしれない。
脚本も映像もよかった
脚本は森野マッシュ氏と松下紗彩氏。
セリフの中に、面白い、いいなと思うものがいくつもあり、二人の会話はありきたりなわけではないのに自然で、聞いていて心地よかった。1,2,5,6,最終10話が森野氏、3,4,7,8,9話は松下氏がそれぞれ担当とのこと。
監督は3,4話のみ牧野将監督、それ以外は柴田啓佑監督。
牧野監督は『ひだまりが聴こえる』で覚えていたので、また好きな作品でお名前を見つけてなんだかうれしかった。宿泊学習で風邪をひいて寝込んだ仁を晴喜がこっそり見舞ったあの ”アイス” キスシーン、撮ったのは牧野監督だったんですね・・・。すごく色っぽいけどいやらしくなく、可愛さもある美しいシーンだった。
柴田監督は私が好きだった『好きやねんけどどうやろか』の監督でもあった。ほかに『佐原先生と土岐くん』の監督も務められたとのこと。
この作品全体としてしっとりと潤いのある映像が多く、切り取りたくなるような印象的で美しいシーンもたくさんあり、このドラマの大きな魅力だった。
身近に信頼できる ”大人” を持てなかった ”未成年”
このドラマを見ていて、周囲の大人の無関心、無責任、自分勝手な姿の描き方がとても印象的だった。私は韓国ドラマをほとんど見たことがないのでお国柄の違いなのかどうか判らないが、韓国ドラマではこうした、親が不在がちの家庭、離散状態の家庭というのはよくある設定なのだろうか。
晴喜の父親は、妻に逃げられてから、二人で暮らすようになった息子の晴喜に泥酔しては家庭内暴力をふるっていた。映画監督である仁の父親は、別居していて仕事も忙しく、たまに連絡を取り合うだけで息子とかかわることはほとんどなくなっているようだった。
近すぎる父親と遠すぎる父親。どちらも支えにならなかった。
そして母親たち。
晴喜の母親は、すでに別に新しい家族を持ち、そこで平穏な暮らしを送っていた。ある時母親に招かれて、晴喜は仁を誘って母親の新しい家に遊びに行く。そこで晴喜が前にも顔に傷を作っていた話になるが、元夫の家庭内暴力のことを全く晴喜から聞いていない母親は、学校でちょっと誰かと喧嘩したくらいに思っているようだった。晴喜が母親を心配させないためにごまかした嘘の説明を信じ、あっけらかんとしている母親。あまりの楽天的な様子に、「母さんは何も知らない」と晴喜から聞いてわかっていた仁もさすがに思わず家庭内暴力のことが口をついて出そうになったほどだった。この強烈な無関心はどこから来るのだろうと、不思議だった。離れて暮らしている息子が顔に傷を作っていたら、いったい何があったのかともっと心配になるだろう。顔に傷を作る殴り合いの喧嘩なんて、今時誰でもするものではない。どういう事情で誰といつそんな暴力沙汰になったのか、”お父さん”はそれに対して何と言っているのか、どう対応したのか、もっと本気で心配し、あるいは元夫や学校に「晴喜のけがはどういうことなのか」と聞くぐらいしても不思議ではないと思う。けれども、喧嘩っ早いところが ”あんたの父親に似てる” くらいの言葉であっさり片付けて、それ以上知ろうとしない。私には、彼女が ”詳しくは知りたくない” と思っているように見えた。自分の新しい人生に元の家族の問題を持ち込みたくないと、心のどこかで思っているように感じられた。今でも慕っている母親の新しい人生の邪魔をしたくないと、父親からの家庭内暴力に耐えている晴喜が不憫でならなかった。
そして仁の母親。
彼女は時々仁に夫、つまり仁の父親についての愚痴も聞かせていた。また、人と深くかかわることの煩わしさを常々仁に言い含め、おそらくやりがいを感じているであろう仕事で外を飛び回り、忙しさにかまけて、母親が不在がちの家で寂しさを抱えているまだ高校生の息子の気持ちに寄り添う暇も、その気もなさそうだった。
仁がやっと大切にしたいと思える恋人に出会えた時に、タイミング悪くアメリカ留学を提案し、”特に別れがたい友達や好きな子がいるわけでもなさそうだし” というようなことを言っていた。一緒に過ごして話を聞くこともしないから仁の意向、今の様子もわかっていないのに、勝手に判断をして自分の考えを押し付ける。そしてまた、言いたいことを言い終わると仕事へと去っていく。
この無関心、自分勝手も、私には何なのかよく理解できなかった。
留学なんか行きたくないと、晴喜の前で泣いていやがった仁がかわいそうでならなかった。
タイプは違うが、無関心、無責任、自分勝手な母親たち。
7話で晴喜の父親が自宅で倒れて亡くなったとき、それを発見した晴喜が慌てふためいてまず連絡したのは、母親ではなく仁だった。驚いてすぐに駆け付けた仁も、動かなくなっている晴喜の父親をみて、すぐにはどうしていいかわからず混乱した。晴喜は自分が殺したようなものだと自分を責め、警察に捕まるかもしれないと口走る。そんなことないのに。
この時だってもし誰か信頼できる大人にまず相談できたなら、警察や消防に連絡して救急車を呼ぶようにいわれるだろうし、調べてもらえば病死と分かり、晴喜が捕まることなどまずありえないから大丈夫と言ってくれるだろう。
いざというときに頼りになる大人がいなかった二人の少年は、考える必要のない恐怖におびえ、どうしていいかわからず寄り添いあって泣いていたのだ。二人を見て、あまりの不憫さに胸が締め付けられた。
体も大きくなり何でも分かっているように見えて、大人と同じように思えても、まだ高校生なのだ。
学校の先生も事なかれ主義で、とにかく彼ら二人の周りには信頼できる"大人" がいなかった。そんな信頼できない ”大人” と対比する存在としての "未成年"の二人だった。ドラマを見るうちに、このドラマのタイトルは私の中で強い意味を持つようになっていった。
信頼できない大人に囲まれて暮らしていた二人は、自分の中の寂しさや悲しさにもいつしか鈍感になり、誰かに大切にされることを知らず知らずのうちにあきらめていたのかもしれない。その二人の少年が、自分を強く必要としてくれる、何とかして一緒にいたいと言ってくれる相手に出会ったことで、他の誰かを求める寂しさや必要とされなかった悲しさが自分の中にあったことに気づき、自分を求めてくれるその相手を大切にしたい、失いたくない、愛おしいと思うようになっていったラブストーリーだったのかと思う。
”大人”になった二人
二人は高校卒業以来4年ほど会わなかったらしい。
大学生の時に再会した二人はもしかしたらもう互いに振り返ることはないのかと心配していたが、また二人で一緒にいることを選んだ。正直ほっとした。暗くて悲しくて美しい物語だったので、予告を見てもしかしたら悲しい別れで終わるかもしれない・・・と考えていたので。
仁の「結婚する?」という突然のプロポーズにはびっくりしたが、それを聞いて一瞬呆けてから、うんうんと何度も小さく頷いた晴喜が子供っぽくてかわいかった。
二人はもう ”未成年" ではなかった。どう生きていくか、自分たちが選択できる ”大人" になっていた。
最終回終盤で出会いから今までの二人の軌跡の映像が流れてジーンとしながら二人の会話を聞いていて、公園でよく二人が使っていた遊具が船を模したものだったことに初めて気づかされた。
水、海、船など、水にまつわるものがたくさん盛り込まれていた作品だった。
この "結婚" をめぐるアフターストーリーがあるそうだが、残念ながら配信のみ。大人の事情なのだろうから仕方ないけれど、ちょっと残念。
それはともかく、ハッピーエンドながらいい意味で明るくなりすぎず、しっとりとした感じが終わりまでずっと変わらずとてもよかった。
独特の空気を持ったとてもいい作品でした。