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英文学の書き出し第10回(最終回)~ジョージ・オーウェル「1984年」~
こんにちは!
こんばんは!
RAPSCALLI😊N です!
この note を始めた今年の3月から書いている英文学の書き出し。
今回で第十回に到達したので、ここで一区切りをつけてこのシリーズを終えようと思っています。
もちろん、絶対に新しい記事を書かないとは限らないのですが、今後は他の記事を書くのに時間を注ごうと思います。
この記事に入る前に、第1回から9回のバックナンバーを載せておくので、興味のある方は是非ご覧ください。
バックナンバー
ジョージ・オーウェルの「1984年」
「1984年」というタイトルの通り、ジョージ・オーウェルのこの作品は1984年の世界が舞台となっています。
しかし、作品自体は1949年に発表され、「未来の人類はこうなってしまうかもしれない」という危険性を提唱した小説です。
具体的には1984年のイギリスを舞台に、国家によって民衆の全ての言動が監視され、少しでも政府に非協力的だったり怪しいというおもわれる行動、思想はすぐに取り締まられるというディストピアを描いています。
長年のベストセラーで、今もなお多くの人に読まれています。
特に近年は戦争で不安定な国際情勢が続き、世界中で情報や思想の取り締まりが強化されていることを背景に、この世界がオーウェルの提唱したディストピアのようになってしまうのではないかという危機感もあり、再注目されています。
今回は、そんな世界的ベストセラー「1984年」の冒頭を見ていきます。
1984年の書き出し
原文
It was a bright cold day in April, and the clocks were striking thirteen. Winston Smith, his chin nuzzled into his breast in an effort to escape the vile wind, slipped quickly through the glass doors of Victory Mansions, though not quickly enough to prevent a swirl of gritty dust from entering along with him.
The hallway smelt of boiled cabbage and old rag mats. At one end of it a coloured poster, too large for indoor display, had been tacked to the wall. It depicted simply an enormous face, more than a metre wide: the face of a man of about forty-five, with a heavy black moustache and ruggedly handsome features. Winston made for the stairs. It was no use trying the lift. Even at the best of times it was seldom working, and at present the electric current was cut off during daylight hours. It was part of the economy drive in preparation for Hate Week. The flat was seven flights up, and Winston, who was thirty-nine and had a varicose ulcer above his right ankle, went slowly, resting several times on the way. On each landing, opposite the lift-shaft, the poster with the enormous face gazed from the wall. It was one of those pictures which are so contrived that the eyes follow you about when you move. BIG BROTHER IS WATCHING YOU, the caption beneath it ran.
重要語句・表現
nuzzle: 押し付けられた
tacked:画鋲で止められた
Hate Week: 憎悪週間(国家の敵に対して憎しみを募らせるイベント)
varicose ulcer: 静脈瘤性潰瘍
Big Brother: オセアニア国(作中でイギリスを支配している全体主義国家)の指導者とされる人物
日本語訳
四月の晴れた寒い日で、時計がどれも13時を打っていた。ウィンストン・スミスは、嫌な風を逃れようとしてあごを胸に埋めたまま、勝利マンションのガラス戸を急いですべりぬけたが、ほこりっぽいつむじ風がいっしょに入ってくるのを防げるほどは素早くなかった。
廊下は茹でキャベツと古いぼろマットのようなにおいがした。片方のつきあたりに画鋲で張られたカラーポスターは、屋内用には大きすぎた。描かれているのは、幅一メートル以上ある巨大な顔だけ。四十五歳くらいの男の顔で、濃く黒い口ひげと、頑強そうでハンサムな顔立ちだ。ウィンストンは階段に向かった。エレベータを使おうとしても無駄だ。調子がいいときでも滅多に動かなかったし、今は昼間には電気が切られていた。憎悪週間に向けた準備のために経済キャンペーンの一環だ。アパートは七階にあったので、三十九歳で右のかかとの上に静脈瘤の潰瘍があるウィンストンは、ゆっくりと階段をのぼり、途中で何度か休憩した。エレベーターシャフトの向かいにある踊り場ごとに、あの巨大な顔のポスターが壁から見つめていた。実に作り物めいていて、こちらが動くとその視線が追いかけてくるような気がする類の絵だ。「ビッグ・ブラザーは見ている」とポスター下の標語に書かれている。
では、おもしろいポイントを順番に見ていきたいと思います。
まず、この冒頭で最も魅力的だと個人的に感じるのは、一文目です。
これほど素晴らしい書き出しは他にあまりないのではないかと考えています。
It was a bright cold day in April, and the clocks were striking thirteen.
(四月の晴れた寒い日で、時計がどれも13時を打っていた。)
ぱっと見は普通の文章で、時期と天気、時間を書いているだけのように見えますが、少しだけ違和感があります。
それが集約されているのが thirteen の一単語。
普通であれば時計には1から12までしかないですよね。
しかし、13を打っていることから、何かが普通の世界と違うと読者が感じるでしょう。さらに13はキリスト教において重要な意味をもつ数字ですから、より一層不吉な感じがします。
さらに見ていくと、主人公はVictory Mansion(勝利マンション)に入っていきますが、「ほこりっぽいつむじ風」や「廊下は茹でキャベツと古いぼろマットのようなにおいがした」と描写しているように建物の輝かしい名前との対比が強調され、不吉な予感が一層強く感じられます。
最後に、最終文にあるオセアニア国の指導者ビッグ・ブラザーのポスターの描写を見てみようと思います。
It was one of those pictures which are so contrived that the eyes follow you about when you move. BIG BROTHER IS WATCHING YOU, the caption beneath it ran.
(実に作り物めいていて、こちらが動くとその視線が追いかけてくるような気がする類の絵だ。「ビッグ・ブラザーは見ている」とポスター下の標語に書かれている。)
他の記事でも書いたように思いますが、何かを描写する際に、無駄につらつら何のプランもなく説明をするのではなく、重要な箇所だけに焦点を当てて短く描写したほうが読者にとってわかりやすく読みやすいです。
この文章でも、ビッグ・ブラザーの顔全体の細かい説明は省き、最後の一文では目や視線だけに注目することで、主人公が監視されている様子を強調することに成功しています。
最後に
今回はジョージ・オーウェルの1984年の冒頭を見ていきました。
今回の記事、そしてこれまでの10回の記事を通して、英語・英文学を少しでも好きになってくれたり、興味を持っていただけたら嬉しいです。
最後まで読んでいただいた方、本当にありがとうございました。
英文学の書き出しシリーズは終わりますが、今後も学びに関する記事をたくさん出していきますので、是非今後好学人のためのnoteを応援していただければ幸いです。
では、また次の記事でお会いしましょう!