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ビジネスケアラーについての新発見

今回はビジネスケアラーについて書いてみます。
 
昨日、某メディアの記者と話していて、こんなことを耳にしました。
 
「ビジネスケアラーがもうじき300万人とか言われていて、もう他人事ではないとか、経済損失が9兆円だとか、社会問題化していますけどぉ。彼らの中には、ビジネスケアラーから脱出しようとしないどころか、そうであることにやりがいや生きがいを感じてたり、『人間として成長するための糧になる』と言って前向きな人たちが結構いるみたいなんですよねぇ…」
 
私のところに相談してくるビジネスケアラーは100%、『現状から抜け出したい。そのために助けてほしい』というスタンスです。まぁたしかに、お困りごとを解決してあげる社会福祉士事務所なわけですから当然ですよね。
 
長年そういった相談を受け続けてきたので、私の中には、無意識に『ビジネスケアラーは悪。一刻も早く親御さんを施設に入れてあげて、相談者自身の人生を取り戻させてあげようよう』という価値観や使命感ができあがっていたのかもしれない…。
 
記者の方と話しながら、そういう気づきというか、「ちょっと待てよ」というクエスチョンが湧いてきたわけです。
 
そこで帰宅して早速、調べてみたところ…。
 
2020年に労働政策研究・研修機構が行った調査を見ると、働きながら家族の介護をしている人の8割が「仕事と介護を両立させることに不安を感じている」と回答しています。ですが、そのうちの2割が「もう仕事を辞めたい」と回答している一方で、8割は「仕事と介護を両立させることにやりがいを感じている」と答えているのです。マジかっ!

信じられなくて、他のデータを漁ります…。

東京都産業労働局(2018年)の調査だと、働きながら家族の介護をしている人の約7割が「仕事と介護の両立にストレスを感じる」。そのうち4割超が「仕事を辞めたい」と回答しています。ちなみに理由は、「仕事と介護の両立に疲れた」・「介護する家族の状態が悪化した」・「勤務先の理解や協力が得られない」等。が、その一方で、約6割もの人が「仕事と介護の両立によって自分自身が成長した」と、ビジネスケアラーであることに肯定的な回答しているじゃないですかっ!

もうパニック状態です。缶ビールを一気飲みしてクールダウン(?)して、頭の中を整理します。

私の認識では、介護離職者300万人のうち半数は非正規雇用者です。中には、自ら望んで『その日暮らし』をしている人もいることでしょう。そういう生活を長く続けてきた人であれば、ビジネスケアラーであることに対して『苦』を感じていなかったり、むしろ、苦境に反骨精神を掻き立てられる人もいるかもしれません。

それに、非正規の人たちは、正規雇用者に比べると転職&再就職への抵抗が少ない。要するに、勤め先を変わったとしても収入面での落差がさほどないわけです。

でも、例えば上場企業の社員が会社を辞めたとしたら、つぎの会社での年収は7割くらいに下がってしまいますから死活問題です。現実的に、40代以上で転職して年収アップするのは医者かエンジニアのみ。事務職や営業職はダウンするだけです。

もしも、正規雇用者のなかにも、老親問題とか介護離職とかを成長の糧とか考えてる人がいたとすると、想像するに、こういうビジネスケアラーの人たちは、幸いにも介護を必要とするご家族の症状がまだ軽いのではないでしょうか。

要介護度が2を超えて、認知症の不穏行動が出てきたり、排泄介助が必要になったりすれば、普通の神経だと、「日々の働きながらの介護が成長の糧」などとは言っていられなくなるはずでしょお? これが私の長年の経験からくる感覚なのです。


というわけで、300万人のビジネスケアラーのすべてが『今すぐにビジネスケアラーを卒業したい』とは思っているわけではないことは認めざるを得ないでしょう。でも、「ビジネスケアラー、ノープロブレム」と言っているひとたちが、親御さんの症状が深刻化していったときにどうなるのか。とても興味深いところです。

いずれにしても、ビジネスケアラーという現状を脱却したいと考えている人は、私が思っているほど多くないことになります。そもそも私のところにコンタクトしてくる人たちは、現状から脱却したい人ばかりなわけですから、これまで私の手元にあったデータは、ビジネスケアラー全体の一部の価値観に過ぎないということになりますよね…。

さらにいうと、『介護離職』というのは大した社会問題ではないのかもしれません。ある程度は本人が納得して、バイトや派遣で頑張りながら家族介護に携わっているのですからね。ビジネスケアラーがすべて生産活動をできなくなったら経済インパクトが9兆円とか言ってみたところで、ほとんどの国民にとっては別に影響なさそうな話でもありますし…。

ちょっと、わからなくなってきました…。

私がすべきこととしては、従来通り、『何とか親を施設に入れて仕事に復帰したい(あるいは、仕事に支障をきたしたくない、仕事を辞めたくない、介護休業を取りたくない…)』という相談者には、経済的事情も含め打開策を提示して、然るべき施設を確保してあげて、仕事と家庭への支障を取り除いてあげる。

メディアや世の中に対しても、『ビジネスケアラーであり続けることを決して望んではいないにもかかわらず、甘んじて現状を受け入れざるを得ない人たちには、社会福祉士が具体的な問題解決(ビジネスケアラーを卒業する)ステップを示してあげますよ』という発信を続けていく…。そういうことなんだろうなぁと、ちょっと無理やり着地点に辿りついた次第です。

そんなスタンスで、企業に対しても、「『親に何かがあっても職場を離れなくてもいい』という選択肢を用意しませんか?従業員に仕事に集中しやすい環境を整えてあげることで、職場満足は上がるだろうし、仕事のクオリティも上がる。働き方改革時代ゆえに採用時のアドバンテージにもなるかもしれない。おまけに、積極的に情報発信すれば株価だって上がるかもしれなませんよ!」といったアプローチを続けていこうと、改めて覚悟を定めた明け方となりました…。
 
時代はDE&Iですからね。『ビジネスケアラー=悪』、『在宅家族介護=悪』と偏った主義主張は控えなければ…と肝に銘じました。
 
 
今週から診療所のプロジェクトがスタートしました。久々に、老親世代側の人たちに『早期にそなえる必要性』と『具体的なそなえ方』を直接訴えていきます。年齢がいくほどに、うんうんと頷いてはくれても、実際に腰を上げてくれる人はほとんどいません。でも、千里の道も一歩からです。伝え続けるしかありません。そうすることで、集まる患者さんたちの娘さんや息子さんがビジネスケアラーになってしまわないように、微力ながらお手伝いしていく所存です。
 
こんなことを書きながら、ル・ボンの『群集心理』が甦ってきました。断言と反復で感染を起こす…。これが国を動かす人たち必須のコミュニケーション技術です。ま、だからなんだ…ということはありませんが…。

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