
親の介護はしないほうがいい
介護をはじめとする老親問題で相談に来られる現役世代の方のほとんどが、仕事や家事で忙しい中で時間をやりくりして、みずから介助に解除に携わってしまっています。
それで、どうにもつらくなって助けを求めてきているはずなのに、親を介護施設に入れることに対して、罪悪感というか、良心の呵責というか、ためらいを払拭できない傾向があります。
そんな時は、こんな話をします。
俗に長生きの象徴とされるツルやカメも、クジラもゾウも貝も、子が親の介護をすることはありません。地球上のあらゆる動物の中で、そんなことするのは人間だけです。
人間とはいっても、老親介護に携わるのは現代人だけです。ほとんどの人が60代半ばで人生を終えていた昭和40年代中頃まで、介護だの認知症だのが起きるまでに逝ってしまっていたからです。
なので、人生100年時代を生きる私たちの遺伝子には、「成人した子が老親の介護をする」というプログラムが書き込まれていないのだそうです。
私たちの脳には、未知のものに対してはネガティブ感情を喚起するという特性があるため、老親介護のことになると、私たちは自然と暗い気分、重たい気分、ささくれだったような気分になってしまうわけです。
仕方ないのです。だから、そんな気持ちになる自分を責める必要はありません。脳が正常に機能している証です。
ここまでの話は、頭では理解できたとしても、情緒的に納得できないのが普通です。なので、次のステップに進みます。
こんな質問をしてみます。
「もしもあなたが将来、介護が必要になったとしたら、娘さんや息子さんに介護してほしいですか?」
ほぼ全員が即答します。
「してほしくありません!私は子どもたちには介護など絶対にさせない。施設に入ります!」と。
私は言います。
「ですよね。あなたのお母さん(お父さん)も、きっとそう思っていたはずですよ。そうでしょう?かけがえのないわが子に、仕事や家庭に支障をきたしてまで自分の介護に携わらせたいなんて、望んでいたわけありませんからね。
親って、わが子が仕事でも家庭でも勉強でもスポーツでも、何でもいいから元気に笑顔でがんばっている姿を見るのがいちばん幸せなんですよね。子どもたちの笑顔がなくなってしまったとしたら、それがいちばんイヤなことじゃないでしょうか。この歳になってみて、私はそう思うんですよね」
で、しばらく沈黙します。
相談者が女性の場合、涙する人が多いです。男性でも五人にひとりくらいは泣きますね。そしておっしゃいます。
「施設さがしをお願いできますか…」
私は続けます。
「今はおつらい決断かもしれませんが、きっとそうしておいてよかったと思える時が来ると思います。たえず一緒に過ごしているときより、たまに施設に様子を見に行くほうが親御さんと優しい気持ちで接することができるはずです。そして、いつか天国に逝かれたあとも、いい思い出やいい記憶だけが残るはずです。みなさん、そうおっしゃってくれます」
いろいろな価値観があると思います。
私は、両親が認知症を患った経験と、多くの相談者のケースから、家族介護は絶対にすべきではないという価値観に至りました。なので、親子双方にとって、家族介護は絶対にすべきではないというスタンスで、相談に対応しています。
親の介護のために仕事を辞める、介護休業を取得する、家庭(配偶者や子供との関係)に支障をきたす…。すべてノーです。そもそも、『仕事と介護の両立』などできるわけがないと思っています。
それでも、「家族が介護するしか方法がないんだ」とおっしゃる方がいます。でも、そんなことはありません。現役世代から老親介護の問題を遮断することは可能です。方法がないなんていうことはありません。大丈夫です。
もしも、たまたまこの記事に出くわして、もしもつらく苦しい状況にあられる方がいたとしたら、決してあきらめないでください。地域の社会福祉士を頼ってみてください。
もしかすると頼りない社会福祉士しか見つけられなかった…なんていうことがあるかもしれません。その場合には、遠慮なく私のところへコンタクトしてください。
社会福祉士は相談援助の国家資格です。あなたを苦しめている問題の解決手順を具体的にガイドさせていただきますので。