カジュアルミーティングのすすめ

管理職研修でわかるのは、多くの上司が、個々の部下と月に一度あるかないか程度のコミュニケーションしか取っていないという事実です。ふだん自分を見てくれていない、ろくに口もきいてくれない。そんな上司に評価される部下はたまったものではありません。「アンタに自分の何がわかるんだ」と開き直られたら困りますからねぇ。被評価者である部下と共有する時間に重要な意味があることがおわかりいただけるでしょう。

ある意味では、人事評価システムあるいは人事評価制度があるからこそ、上司はどんなに忙しかろうと、部下ひとりひとりと対話する機会を持たざるを得ないのです。だからこそ、人事評価制度においては、最低でも目標設定時・中間・評価伝達時の3回(場合によっては2回)は部下と一対一の対話を持つように設計されているわけです。これが人事評価制度導入の大きな利点だと思っています。

ですが、これでもまだ足りないというのが私の実感です。毎週一回。それが無理なら隔週一回。それも無理なら、最悪の最悪、月に一回でもいい。部下ひとりひとりと10分。カジュアルミーティングの時間を捻出できないものでしょうか。要は、雑談タイムです。これをしくみ化できればベストだと思います。外資系企業では多く採り入れられていますが、日本企業ではまだまだです。

とても重要なことなので繰り返しますが、部下との対話を定例化することのメリットはこういうことです。上司が思い出したように部下を呼び出すと、まずまちがいなく部下は説教されることを予想しながらやってきます。だから最初から鎧を身にまとっています。すると、本音を聞き出しづらくなります。だから定例化するのです。伝えるべきことがあろうとなかろうと、定例的にふたりで雑談する時間を持つ。この接触頻度が、部下と上司の心理的距離を縮めてくれるのです。上司に対する好感度が増すといってもいい。何でもいいから、部下のその時点での想いや関心事を聴いてあげる。気づいたことを褒めてやったり提言してやったり。自身の過去の失敗談とそこからの気づきを話してやったり……。

特に仕事の話題がないときは、プライベートのことだっていいのです。「家庭のほうは順調?」「お子さん、大きくなった?」「夏休みは何か予定あるの?」等々。人は自分の話を聴いてくれる相手を好きになるものだ。自分に関心を寄せていろいろと訊いてくれる相手に好感を持つようになるものです。そして、好きなひとの期待には応えたくなるのが人情です。そして、成果を上げて、好きな相手から褒められたいと思う。褒められることで自信が増し、仕事の取り組み姿勢がより前向きになる……。まさにポジティブループです。デキる上司というのは、話を聴いてやるだけで部下を育てていると言っても過言ではないでしょう。

もうひとつ。カジュアルミーティングの大きな効用は、部下と会話する頻度を高めることで人事評価が確実にやりやすくなるということです。部下と日常的に接触していくと、部下の心にはさまざまなプラスの感情が芽生えてきます。「課長は自分のことを見ていてくれるんだな」といううれしい気持ち。「課長は自分のこういうところに期待してくれていたんだな」という期待に応えようという気持ち。「課長はこういう考え方の人なんだな」という、そこから逸脱しないように努めようという気持ち。こういった意識が部下の中に積み重なっていくと、仮に上司が時に厳しい評価を下さねばならない局面があったとしても、部下の納得度がちがってくるのです。「常々、課長はああ言っていたものなぁ」「あの課長が言うのであればきっとそうなんだろう」「あの課長に言われたら、まぁ仕方ないかな」等々。納得する確率が高くなるわけです。

人事評価に悩んでいる管理職の相談を受けてみると、いずれも部下との会話や接触頻度が著しく少ないことに気づきます。ロクに話したこともない部下を採点し、年に数回しかない面談で、評価の根拠について伝える。ちょっと想像しただけでも、部下を納得させるのはかなりの困難を伴うであろうとわかるはずです。最近は、平然と上司に言い返す部下も増えてきました。私たちが社会人デビューした頃のように、上司の「依らしむべし、知らしむべからず」といった態度は、現代では通用しないことを肝に銘じたいものです。

その意味で、上司にとって人事評価というのは、リスク管理の一環でもあると言うことができるでしょう。繰り返しますが、評価自体が目的なのではありません。評価を通じて、部下たちをあるべき方向へ導いてやる。何年かの間、縁あって預かることになった部下をブラッシュアップして次のステージに送り込んでやる。つまり、人財育成が目的なのです。部下を自分の可愛い子どもと思えるかどうか。わが子だと思えば、無責任な審査員のような向き合い方はできないはずです。相手の将来のために善かれと信じて、ひとつひとつの言葉を選びながら口にするはずです。そんな上司に出会えた部下は幸せですよね。

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