「歯医者に通いながら考えた“陰徳”という生き方」
歯医者が好きだと言う人、あなたの周りにいますか?
たしかに、審美治療で芸能人みたいな笑顔を手に入れたいとか、受付のエリカちゃん(※ここはご自身の理想の女性像を思い浮かべてください)に会えるのが楽しみだとか、イケメンドクターのショウ先生(※笑顔が眩しくて、むしろ歯科よりテニスコートでサーブを決めていそうなタイプ)に診てもらいたい、なんて理由がある人もいるかもしれません。でも、そんな特殊なケースを除けば、歯医者は「できるだけ避けたい場所」なのではないでしょうか。
それはおそらく、日常の生活習慣や怠惰がまるっと暴かれてしまうからです。
たとえば、こう尋ねられたらどうでしょう?
「毎日、きちんと歯磨きしていますか?」
この問いに堂々と答えられる人がどれほどいるのか。今までの僕は、少なくとも正直に答える自信がありませんでした。
そんな僕ですが、今「インビザライン」という歯科矯正に取り組んでいます。透明なマウスピースを段階的に装着し、少しずつ歯を動かして歯並びを整える治療法です。この治療、やってみると想像以上に大変で、食事をするたびにマウスピースを外し、その後は歯を隅々まできれいにしないといけません。
食べ物が挟まりやすくなっていることもあって、電動歯ブラシやフロスを駆使して掃除する日々。最初は「間食が減ってダイエットになるかも!」なんて甘い期待を抱いていましたが、お菓子への誘惑に負け続けています(笑)。それでも、矯正が無駄になるのが怖くて、毎食後の面倒な歯磨きを欠かさず続けています。
矯正治療の進捗確認のため、1カ月に一度歯医者へ通っていますが、ここでも毎回ドキドキします。「虫歯、できていないかな?」と。今のところセーフですが、矯正と虫歯の戦いはまだまだ続きそうです。
話は少し変わりますが、僕には妻と小学5年生の息子がいます。息子の歯磨き事情は、ちょっと特殊かもしれません。朝は自分で磨きますが、夜は妻が仕上げ磨きをしてくれています。寝る前に本を読みながら磨いてもらう息子の姿は、我が家では当たり前の風景ですが、他の家庭から見れば「まだ親に磨いてもらうの?」と驚かれるかもしれませんね。
もちろん、この方法にはメリットがあります。妻が磨けば息子の歯はピカピカですし、虫歯を防ぐことで治療費や通院の手間も省けます。でも、一方で思うのは、「自主性」の問題です。息子が自分で歯を管理する力を養う機会を奪っているのではないかと。
もし「今日から全部自分でやりなさい」と言ったら、最初は磨き忘れたり、雑だったりして僕ら親がイライラするかもしれません。でも、それを見守ることで自主性や責任感が育つのだと考えると、親としてどうするべきか迷うところです。
こうした歯の話をしていると、ふと思い出すのがGReeeeNのこと。彼らのメンバー全員が歯医者という話は有名ですよね。歌手活動をしながら歯科医を続ける理由は何なのか――それを知るほど詳しいわけではありませんが、「歯医者さんなのに、なんでアーティストを?」とつい考えてしまいます。
もしかしたら、歯医者だけでは十分に生計を立てられないのかもしれない。いや、きっとGReeeeNのように成功している歯科医もいれば、厳しい労働環境や経済事情に苦しむ人もいるのでしょう。
それでも、虫歯に悩む人が尽きない限り、歯医者という職業の需要は続くのだと思います。ただ、もしもすべての人が完璧なセルフケアを行い、虫歯が激減したら――そのとき、歯医者はどうなるのでしょう?
「もう歯医者に来なくても良いように、しっかり毎日歯を磨きましょうね」と優しく送り出す歯医者さんを見かけると、その言葉の裏に感じるのはちょっとした矛盾です。患者にとっては理想的な未来ですが、歯医者にとっては厳しい現実かもしれません。それでも、社会全体にとっては医療費削減という恩恵をもたらす、ということなのだと思います。
陰徳という言葉があります。
僕たちが毎日歯を磨く行為は、陰徳の一種だと思うのです。最初は自分の健康のための習慣だったとしても、それが子どもや社会全体に良い影響を与えるのなら、ちょっと気持ちが変わりませんか? 地味で面倒な歯磨きも、そんなふうに考えると少しだけ前向きに続けられそうな気がします。