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DORAとともにこれからの研究評価を考えよう

田中 智之

私が所属する日本生化学会は国内ではかなり早い段階で署名しており、私も個人で署名しております。DORAの歴史は長く、活動も活発なのですが、今も(特に国内では)JIFによる数値評価が重要な位置を占めている研究領域は少なからず存在します。

研究者の方はご存知ですが、ひとつの学術誌に掲載される論文の引用数の分布は正規分布ではなくべき分布に近いです。その場合、平均値にはあまり意味がなく(例えばものすごく引用数の多いお化け論文はJIFを上げますが、一報による効果です)、JIFが掲載論文に期待される引用数を反映するとはいえないわけです。

医学部では応募者の掲載論文の学術誌のJIFの和が自動的に計算されるExcelシートを人事評価で使用しているようなケースもあり、DORAが警告する典型的な誤用がまかり通っています。当事者の教員からお話をうかがうと、「同じ学部とはいえ違う分野の研究の良し悪しは評価が難しい」「そうはいうけどJIFの高い学術誌における査読は厳格だよ」といった声を聞くことができます。

このあたりは評価の本質と関わる問題ですが、「専門性の高い成果は専門家にしか評価できない」というピアレビューの原則は揺るがないものでしょう。専門性の評価はJIFに投げてしまうのではなく、専門家自身が言葉を尽くすということが大切です。専門外の人間からは依怙贔屓なのか妥当な評価なのかが分からないところもあるわけですが、その部分は評価する人が説明責任を果たす、そして相互に信頼関係のある人たちの間で評価をするしかないわけです。人事選考の場合は、専門性以外の評価軸もあるわけですから、専門外の人たちはそちらで貢献すれば良いわけです。また、研究活動は論文や学会発表だけで構成されているわけではありません。現在は軽視されているその他の評価軸に注目することも大切です。

参考文献

ライデン声明(和訳)

定量的評価(数値評価)は定性的評価の補助として用いるべき、多様な評価軸の導入など、重要な提言。

http://www.leidenmanifesto.org/uploads/4/1/6/0/41603901/leiden_manifesto_japanese_161129.pdf


「2040年の科学・学術と社会を見据えていま取り組むべき10の課題」日本学術会議若手アカデミー

若手アカデミーの提言においても、研究活動の多様性が強調されています。

https://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-25-k230926-4.pdf


「Science Fictions あなたが知らない科学の真実」スチュワート・リッチー

JIF信仰はなぜ生じるのか、研究者が立ち返るべき原点とは何かが最後の方で議論されています。うんざりさせられる科学研究の現状ですが、読み物としてもとても面白いです。


「科学者をまどわす魔法の数字、インパクト・ファクターの正体」麻生一枝

JIFで一冊の本が書けるのか?と思いましたが、読み応えがありました。どこが駄目なのかを偉い人に説明しないといけない貴方に。



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