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『2001年宇宙の旅』は駄作なのか?

 評論家の勢古浩爾が『定年後に見たい映画130本』(平凡社新書 2022.6.15.)において以下のように記している。

 しかしたけしは、「スタンリー・キューブリックはめちゃくちゃ好きな監督。いや、いちばん好きな監督だろうね。『時計じかけのオレンジ』と『2001年宇宙の旅』のこの二作だけでも、彼の才能を十分物語っているでしょ」(北野武、ミシェル・テマン『Kitano par Kitano ー 北野武による「たけし」』早川書房)なんてことをいっている。
 そうなのか? もちろん、世間でこの二作品が名作と評されていることは知っているが、わたしにとってこの二作は、疑問の余地のない駄作である。人それぞれだが、こうも評価が一八〇度ちがうと、どうにも挨拶のしようがない。

『定年後に見たい映画130本』 p.253

 「北野武が選ぶベスト10」において『2001年宇宙の旅』は『天井桟敷の人々』(マルセル・カルネ監督 1945年)に次ぐ第2位である。

 コラムニストの中野翠は『コラムニストになりたかった』(新潮文庫 2023.2.1.)で以下のように記している。

 スティーヴン・スピルバーグ監督の『未知との遭遇』、ジョージ・ルーカス監督の『スター・ウォーズ』も大ヒット。……私は基本的に宇宙物にはあんまり興味がないようだ。『ニ〇〇一年宇宙の旅』(スタンリー・キューブリック監督、一九六八年)が、いまだに私にとっての宇宙物の最高傑作で、『スター・ウォーズ』は宇宙活劇と呼ぶべきもので、ジャンルからして違う。

『コラムニストになりたかった』p.105

  因みに勢古は1947年生まれ、北野も1947年生まれで、中野は1946年生まれだから同世代なのだが、『2001年宇宙の旅』に関してこのような差が生じるのが不思議なのである。
 そこで気になったのが勢古の以下の言及である。

 学生時代には、お金がないのによく見た。安映画館の三本立てである。社会人になってからは、映画館に行くことはめっきり少なくなったが、代わりにビデオはよく借りた。いまのDVDから考えてみれば、ビデオテープはぶざまなほどばかでかかった。三本も借りればけっこうな量だった。

『定年後に見たい映画130本』p.9

 どうも勢古は『2001年宇宙の旅』を映画館で観賞したことがないのではないのかと思う。『2001年宇宙の旅』という作品はストーリーを追うというよりも「映像を浴びる」ような体験をしてこそその価値が分かるはずで、それはテレビ画面では味わえないものであり、それは映画館でもDVDでも『2001年宇宙の旅』を観賞した筆者の実感でもある。