
【ビアズリー展へ】蝋燭の炎に命燃やして
約220点のビアズリーが所せましと並ぶ今回の展覧会。有名作品もいくつもあった中、最も心に残ったのがこの作品でした。

インク、紙 34.0 × 12.3 cm
ビアズリー20歳の作品《詩人の残骸》。
痩身の男性がこちらに背を向け、椅子に腰かけて仕事をしている。机の上には伝票や手紙の束、足元に並ぶ帳簿や名簿のような大きな本。表情はわからないが、浅い座り方や猫背気味の姿勢、やや不安定な足元の様子からは忙しそうな雰囲気が伝わってくる。人物の後ろの床にはべったりと寝たひまわりの花が描かれている。
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この頃のビアズリーは会社員としてフルタイムで働いたあと、夜9時ごろから深夜までを制作時間にしていたそうです。
彼は幼少期からの結核持ち。就職した17歳の時にも症状が急激に悪化して喀血しています。本来フルタイムで働くのすら負担だったはず。
ひまわりは当時クジャクや百合と共に耽美(唯美)主義者のアイコンとして用いられていた花。タイトル《詩人の残骸》とあわせて考えると、この作品がビアズリーの自画像という説を大いに支持したくなります。
時間も体力も生活のための仕事に奪われ、本来の自分がしおれて行くような感覚。募る焦燥感もあったかもしれません。
命を削ってでも、自分の"本当の仕事" を追求する意欲は止められなかった、止めたくなかったのではないでしょうか。
公式図録にも『二重生活』と書かれている約三年の生活は、この作品が描かれた年の秋まで続きました。
■もし人並に長生きだったらどんな絵を描いていたのだろう
そしてビアズリーの画業はたった5年で途切れます。
展覧会では、さいごの病床で描かれた作品たちも展示されていました。もっと描くつもりだったはずですし、実際その作風からは代表作と呼ばれる《サロメ》を悠々と超えて変化/発展の波に乗ってゆく気配のようなものが感じられます。
ビアズリーはとても短命だったと昔から知っているのに、"これより後" の画風を知りようがないことに、急に寂しさを覚えながら美術館をあとにしました。
■巡回展決まってた
三菱一号館での展覧会は5/11までですが、その後巡回も決まっています。
ビアズリーが命を燃やして描いた線を、あんなに間近で見られる機会はなかなかないと思います。気になっている方はぜひ訪問を……!
福岡県 久留米市美術館 2025.5.24~8.31
高知県 高知県立美術館 2025.11.01~2026.1.18
今回もここまで読んでいただき、ありがとうございました。