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【随想】宮沢賢治『雪渡り』
雪がすっかり凍って大理石よりも堅くなり、空も冷たい滑らかな青い石の板で出来ているらしいのです。
「堅雪かんこ、しみ雪しんこ。」
お日様がまっ白に燃えて百合の匂を撒きちらし又雪をぎらぎら照らしました。
木なんかみんなザラメを掛けたように霜でぴかぴかしています。
「堅雪かんこ、凍み雪しんこ。」
四郎とかん子とは小さな雪沓をはいてキックキックキック、野原に出ました。
こんな面白い日が、またとあるでしょうか。いつもは歩けない黍の畑の中でも、すすきで一杯だった野原の上でも、すきな方へどこ迄も行けるのです。平らなことはまるで一枚の板です。そしてそれが沢山の小さな小さな鏡のようにキラキラキラキラ光るのです。
笛がピーと鳴り幕は明るくなって紺三郎が又出て来て云いました。
「みなさん。今晩の幻燈はこれでおしまいです。今夜みなさんは深く心に留めなければならないことがあります。それは狐のこしらえたものを賢いすこしも酔わない人間のお子さんが喰べて下すったという事です。そこでみなさんはこれからも、大人になってもうそをつかず人をそねまず私共狐の今迄の悪い評判をすっかり無くしてしまうだろうと思います。閉会の辞です。」
狐の生徒はみんな感動して両手をあげたりワーッと立ちあがりました。そしてキラキラ涙をこぼしたのです。
単為無性の増殖装置が始まりだった。環境によって、気まぐれによって、偶然によって、枝は無数に、それこそ無数に分かれた。時には消滅、時には復元、時には結合、分裂、また結合。とにかく一直線、その希求するものは一つ、より永くより遠くへ、X軸に沿ってどこまでもどこまでも。そんな遙かな旅路の途中にはこんな日もあっただろう。異形と異種が混じり合うそんな、こんな日があっただろう。始まりは一つ、終着もきっと一つだ。共有する遺伝子に問い掛ける、みんなが望んでいるものとは何か。
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