嘘には二種類ある、自分の身を守る為の嘘と相手を陥れる為の嘘、言い換えれば防御的な嘘と攻撃的な嘘である。小さな子供はよく嘘をつくが、その性質は全て前者であり、子供でありながら積極的に人を騙し、苦痛を与えようとしたり何らかの利益を得ようとする者はまずいない。まだ学校のような集団社会を知らない小さな時分は、嘘が相手に与える影響や自らにもたらす利益について経験的な知識や感覚が無く、そのリスクもリターンも分からない。だから嘘をついたとしても、嘘をついているという意識は極めて希薄であり、悪いことだと教えられているから悪いと思うだけである。それが長じるにつれ、苦し紛れについた嘘によって予想外の利益を得るという謂わば成功を体験し、その味を覚えていく。周りの人間が聡明であれば、彼の嘘はやがて見破られ、成功は挫折へと変わり、嘘が持つ大きなリスクを知ることで彼は嘘を嫌うようになる。だがその挫折を知ることの無いまま幼年期を越え、少年期を越えてしまうと、モンスターが誕生する。嘘がもたらす利益と快感に溺れ、嘘をつかずにはいられなくなるのだ。それは彼の性質として固定され、もはや一生変わることはない。嘘つきを矯正しようとするのは無駄である。それでも付き合わなければならないのなら、嘘をつかれる覚悟を決めるしかない。