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【随想】宮沢賢治『マリヴロンと少女』
「ええ、それをわたくしはのぞみます。けれどもそれはあなたはいよいよそうでしょう。正しく清くはたらくひとはひとつの大きな芸術を時間のうしろにつくるのです。ごらんなさい。向うの青いそらのなかを一羽の鵠がとんで行きます。鳥はうしろにみなそのあとをもつのです。みんなはそれを見ないでしょうが、わたくしはそれを見るのです。おんなじようにわたくしどもはみなそのあとにひとつの世界をつくって来ます。それがあらゆる人々のいちばん高い芸術です。」
「けれども、あなたは、高く光のそらにかかります。すべて草や花や鳥は、みなあなたをほめて歌います。わたくしはたれにも知られず巨きな森のなかで朽ちてしまうのです。」
「それはあなたも同じです。すべて私に来て、私をかがやかすものは、あなたをもきらめかします。私に与えられたすべてのほめことばは、そのままあなたに贈られます。」
輝くものを見るとき己もまたその輝きを受けて輝く
ちょうど太陽と月のように
月の輝きは太陽が消えていないと証明する
光があるから闇があるのではない
闇を闇と思う心が光を存在させている
世界があって自分がいるのと全く同じ意味
自分がいるから世界があるのだと気付く
風に舞う木の葉によって風が吹いていると知る
言葉ではなく感覚でこの時空に飛び込み溶け込み拡散して
全てが一つで一つは全てであると理解する
何かが何かを構成している理それもまた無限の循環それは永劫回帰
地獄から煉獄から地上から天国から星から系から銀河から宇宙から
この場所へ来た己の魂を掴む
それは脳髄それは心臓それは皮膚それは光
つまり世界
そのままそのまま
そのままこのまま
それは世界
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