【随想】太宰治『家庭の幸福』
現代社会において、個人を拡大した意味での「家庭」とは絶対的な最優先事項である。如何なる敵も退ける黄金の無敵戦艦、最強の言い訳である。これさえあれば何をされても何を言われても揺るがない。これの為なら社会を敵に回すことさえ許される。
家庭に己の自信を完全に依拠する者は、逆に言えばそれが無ければ生きる意味を見出せない者でもある。家庭が価値観の源泉であり、己はその付属、湧水に揉まれ浮き沈みを繰り返す落ち葉である。
人は一人で生まれてくるのに、いつの間にやら他者と重なり、突起に引っ掛かり、或いは網に絡め取られ、その足を萎え腐らせていく。
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