家というのは不思議なもので、住む者が居ないと例え新築であろうとどんどん朽ちていく。手を触れずに放置しておくよりも、数十キロの肉と脂の塊が埃や雑菌を撒き散らしながらどすどす歩き廻っている方がずっと家は元気で居る。
精気というものはやはりあるのだろうか。生命を持たぬ筈の家屋が、そこに人を住まわせ住人の精気を吸うことで自身の健康を保っているように見えるのは、擬似生命現象とも言うべき一種の驚異である。
久方ぶりに戻った実家が妙によそよしく感じるのは、そこに自分の精気が無いからではないだろうか。でもすぐに昔のように馴染めるのは、家がこの精気の持ち主を思い出し受け入れてくれるからではないだろうか。