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【随想】宮沢賢治『シグナルとシグナレス』

『でもあなたは金でできてるでしょう。新式でしょう。赤青めがねも二組まで持っていらっしゃるわ、夜も電燈でしょう、あたしは夜だってランプですわ、めがねもただ一つきりにそれに木ですわ。』
『わかってますよ。だから僕はすきなんです。』
『あら、ほんとう。うれしいわ。あたしお約束するわ』
『え、ありがとう、うれしいなあ僕もお約束しますよ。あなたはきっと、私の未来の妻だ』
『ええ、そうよ、あたし決して変らないわ』
『婚約指環をあげますよ、そらあすこの四つならんだ青い星ね』
『ええ』
『あの一番下の脚もとに小さな環が見えるでしょう、環状星雲ですよ。あの光の環ね、あれを受け取って下さい、僕のまごころです』
『ええ。ありがとう、いただきますわ』

宮沢賢治『シグナルとシグナレス』(童話集『新編 銀河鉄道の夜』)新潮社,1989

 関係の特殊性が言葉の意味と重さを変える。単なる知人友人同士の間で使用される分には何の意味も持たない戯れ言も、たとえば恋人同士の間では途端に重く切実なものとなる。「ありがとう」「さようなら」、こんな儀礼的な言葉にさえ冷熱が付き纏い大きな感情を呼び起こす。「へぇ、そうなんだ」、こんな一言に未来の共同生活の破綻を見抜き別れを告げる者もいる。端から見れば児戯に等しい恋愛劇も、本人たちはあくまで真剣であり時に生死を分かつこともあるのだ。「くだらない」、それは主観でしか有り得ない。河原で拾った石英をダイアモンドと信じて磨き続ける行為を、きっと誰もが笑うだろう。しかし何かを本気で信じている瞳はどんな宝石よりも輝いていることに気付く者は殆どいない。真実価値有るものとは、価値を信じる心そのものだ。信じる者は救われる。誰あろう、己自身によって救われる。

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Junigatsu Yota
素晴らしいことです素晴らしいことです

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