この記憶が消えてしまえば、それでもう世界から永遠に消えてしまう物語。唯一人が知っていて、唯一人によって完結される物語。独り言だ。呟きは誰にも聞こえない。この耳に響いて、神経を少し刺激して、それで終わり、それだけの話。独立した事件、唯一人の事件。共有された事件とは明らかに性質を異にする、解決しない事件。目撃者も関係者も共犯者も被害者も加害者もいない、刑事も検察も弁護士も裁判官もいない。唯一人の事件、何が起きたのか、それがどうしたのか、その後どうなったのか。孤立した感覚、共存しない感覚。砂の流れは、集合意志があるようでいて、それぞれが、それぞれに、それぞれを、為している。唯一人。此処に、其処に、唯一人。彼岸へ渡る人、唯一人。