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【随想】宮沢賢治『かしわばやしの夜』
「またはじまった。まあぼくがいいようにするから歌をはじめよう。だんだん星も出てきた。いいか、ぼくがうたうよ。賞品のうただよ。
一とうしょうは 白金メタル
二とうしょうは きんいろメタル
三とうしょうは すいぎんメタル
四とうしょうは ニッケルメタル
五とうしょうは とたんのメタル
六とうしょうは にせがねメタル
七とうしょうは なまりのメタル
八とうしょうは ぶりきのメタル
九とうしょうは マッチのメタル
十とうしょうから百とうしょうまで
あるやらないやらわからぬメタル。」
お月さまは、いまちょうど、水いろの着ものと取りかえたところでしたから、そこらは浅い水の底のよう、木のかげはうすく網になって地に落ちました。
「雨はざあざあ ざっざざざざざあ
風はどうどう どっどどどどどう
あられぱらぱらぱらぱらったたあ
雨はざあざあ ざっざざざざざあ」
「あっだめだ、霧が落ちてきた。」とふくろうの副官が高く叫びました。
なるほど月はもう青白い霧にかくされてしまってぼおっと円く見えるだけ、その霧はまるで矢のように林の中に降りてくるのでした。
うたが聞こえてくる。鳥のさえずりも虫の鳴き声も確かにリズムを持っている。そりゃそうだ、そうでなきゃ聞こえない筈だ。何でもない音は気にならないから聞こえない。誰かが歩く音が聞こえる。なぜ歩いていると分かるのかって、それはリズムがあるから。歩くリズム、走るリズム、立ち止まるのでさえ、その音で分かるんだから。川が流れる、波が打ち寄せる、風が吹く、全部分かる、聞き分けられる。木の音、鉄の音、硝子の音、布の音、水の音、氷の音、炎の音、電気の音、全部々々分かる。世界は無数の音で溢れている筈なのに、或る音を或る現象と結びつけて取り出すことが出来る。これって凄いことだ。色々なものが色々な音を出す。人間だって、その人はその人だけの音を出す。でも、自分がどんな音を出しているのか、気を付けて聞いたことのある人はあんまりいないのだろうな。だからみんな不安なんだろう。それって少し残念だ。
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