うたが聞こえてくる。鳥のさえずりも虫の鳴き声も確かにリズムを持っている。そりゃそうだ、そうでなきゃ聞こえない筈だ。何でもない音は気にならないから聞こえない。誰かが歩く音が聞こえる。なぜ歩いていると分かるのかって、それはリズムがあるから。歩くリズム、走るリズム、立ち止まるのでさえ、その音で分かるんだから。川が流れる、波が打ち寄せる、風が吹く、全部分かる、聞き分けられる。木の音、鉄の音、硝子の音、布の音、水の音、氷の音、炎の音、電気の音、全部々々分かる。世界は無数の音で溢れている筈なのに、或る音を或る現象と結びつけて取り出すことが出来る。これって凄いことだ。色々なものが色々な音を出す。人間だって、その人はその人だけの音を出す。でも、自分がどんな音を出しているのか、気を付けて聞いたことのある人はあんまりいないのだろうな。だからみんな不安なんだろう。それって少し残念だ。