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いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう 7

じいさんが死んだのが大きいんだろうな。
震災の年の秋頃か、じいさんか倒れて、入院した頃。
じいさんは人が変わってた。
苦労して、農業一筋に生きてきた80歳の老人がさ、怒りと憎しみだけの人になってた。周りを罵って、傷つけて、恨んでた。それを誰よりも向けられたのが、○○だった。
もう、じいさんには○○が、誰なのかも分かってなかった。
そんな状態で、毎日、毎日、○○を口汚く責めるんだよ。この卑怯者が!この盗っ人が!俺の畑を返せ!俺の山を返せ!おめえのせいだ。死んじまえって。
病気だから仕方がないのに○○はバカたからさ、受け止めちゃうんだよ。
じいちゃん、申し訳ねー。
じいちゃん申し訳ねー、って言って。
罵倒されて、蹴られて、謝ってた。
じいさんはそれから一度も○○を思い出すことはなかった。
80年間、大根育ててた人が、最後が、怒りと憎しみと孤独だけだった。それが大好きなじいちゃんの最後だったんだよ。
夢も思い出も帰る場所もあいつを支えてた全部が消えてなくなった。
・・・・・・・・・・・・
おじいちゃんは○○さんのことが大好きだったと思います!恨んだりしてなかったと思います!ちゃんと大好きで心配でありがとうって思ってたと思います!
 会ったこともないのに、何も知らないのに・・・
 じいちゃんは駅の便所で死にました。
臭い臭い液の便所の床に倒れて、一人で死にました。
そこに俺はいなかった。何の言葉も何の遺言もないまま憎んで恨んで一人で冷たくなりました。何もご存知ないなら勝手なこと言うな。
・・・・・・・・・・・・
何で、何でこんな時に、昔好きだった男に会いに行くわけ?
会っていいかどうかなんて、どうして俺に聞くかな?
そんなのさ。
会うなって言うのも、会って良いよって言うのも、どっちも俺は嫌だよ。
だったら黙って行って欲しかった。
こんなこと言うつもりじゃなかったのに。
君と幸せになりたいだけなのに…
・・・・・・・・・・・・
震災の時はどこにいたの?
 会津の家の近所に。
無事で良かった。
良く頑張ったわね。
良く頑張った。
生きてる自分を責めちゃダメよ。
△△ちゃんを見てると、△△ちゃんのお母さんがどんな人だったかわかる。
○○を見てると
○○のおじいちゃんが、どんな人だったかわかる。
私達、死んだ人とも、これから生まれてくる人とも一緒に生きて行くのね。
精一杯生きなさい!

おかえり…

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