狭く隔てられたサッカー界にいる俺が、本を読みまくるために実践してきた読書術を書いてく
サッカー界は狭く、他と隔てられた世界だ。そこにずっと浸かっている俺にとって、自分と外の世界を繋ぎ止める命綱は間違いなく読書だった。だから、これまでたくさんの本を読んできた。
本を読む人のことを、本を好きな人と同じように扱うことがあるが、それ全然違う。確かに俺は本が好きだが、クソ忙しい中でも本を読むために、あらゆる試行錯誤を繰り返してきた。
読書とは技術だ。なめんな。今日は俺が読書をする上で大切にしていること、俺なりの読書術を書いていく。そんなに難しいことじゃない。心構えみたいなもんだ。
ファミレスでラーメン食うな
まずは本屋に行け。本屋はいいぞ。嗜好を凝らしてとにかく本を買わせようとしてくる。この時代に本屋に就職した奴らなんて、全員信用できる。だから俺は本屋に行く。
Amazonのほうが品揃えはいいか聞かれると、そうとも限らない。都会の本屋はすごい。だいたい、Amazonとかで本を買うと、本をキメてる感覚が乏しいんだな。ファミレスでラーメン食ってるようなもんで。なんかこう……違うだろ……ラーメン食うならラーメン屋一択なんだよ。
次に本の選びかただ。まず本を選ぶとき「優れた本」など存在しないということを知っておいてほしい。あるのは「適した本」だけだ、「自分に適した本」だな。端的に言えば、知っていることを更に知る本のことをそう呼ぶ。
知らないことを知るのは楽しいが、それは娯楽だ。実践的な読書というのは、もっと攻撃的なものだ。"知"を見晴らしのいいところから眺めるのではなく、コーナーに追い詰めていく感覚だ。
だから丸腰で本屋に行くな。自分が知ろうとしていることについて、どこからどこまで理解できているのか、どの角度からの見解を必要としているのか、じっくり悩んでから家を出ろ。
ただの紙の塊にマウントを取られんじゃねえ
本を買って、いざ目の前にすると、本はその荘厳なフォルムをもって「貴様は、結論まで辿り着けるのか?」と脅しをかけてくる。はっきり言って勝てる気がしない。だから真っ向勝負するな。奇襲をかけろ。
本は後ろから読め。「終わりに」「まとめ」みたいな章から読め。裏口から本陣に突撃しろ。冒涜しているような気分になるかもしれないが、気にすんな。お前の金で買ったその本は、お前に利用されるためだけの存在だ。まずは主従関係をはっきりさせろ。圧倒されるな。
あと、頭からページをめくると、なんとか大学のなんとか教授みたいなヤツが「まず、この分野の研究というものは〜」とか話し始める。しんどい。大学の講義で「あ〜おっけすwありがとうございますwwwほんでw結論 何が言いたいんすかwww」と聞くと退席処分になるけど、本ならそれができる。やれ。
結論をなんとなく把握できたら、次に気になる章をパラパラっと読むんだ。順番なんて守らなくていい、知りたいことが書いてそうなところからいけ。飽きたら休憩しろ。
それはもう読み終えた本だ。お前の勝ちだ。「あの本、読んだ?」と聞かれれば「あー、読んだ読んだ、悪くなかったな」って言っていいぞ。俺は言ってる。どうせ一字一句逃さず読んでも全部を覚えてるわけじゃないんだ。
長期戦なんだから戦略を立てろ
本を読むのは長期戦だ。一冊を読むのもそうだし、一冊だけ読んでもしかたないので、いずれにせよ長い戦いになる。自分の時間をどう振り分けるか、自分の得意な戦い方にどう持ち込むか、生活習慣や己の性格や傾向に基づいて、ガチガチに戦略を立てろ。
俺の場合、まず、読書と移動を紐づけている。家を出るときに本を片手に出る。ポケットのスマートフォンよりも存在感を放っていることが重要だ。俺はオフィスの近くに住んでいるが、door to doorで30分くらいは読める。通勤の往復以外にも何度か移動があるから、そのときも読む。
次に昼食。夕食は流動的だし、誘われると断りにくいけど、昼食はしれっと出て行ってもお咎めなしだ。ここも30分くらいは読める。
最後に、読書のためだけの時間も作る。一週間が始まる前に、仕事が早く終わってファミレスこもれそうな夜とか、休日の一人になれそうなタイミングとか、三か所ブロックしておく。
これで週に2-3冊は間違いなく読める。試してみてほしい。本を読む人生を始めたいのであれば。
・・・
本ってのは、天才が何年もかけて作ったものだ。俺は天才じゃないが、一冊書いたことがあるからわかる。その辺の兄ちゃとか姉ちゃんが数時間とかで作っているコンテンツとはモノが違うんだな。
でも、ここには真理がある。天才はなかなかいないし、創作はハードだ。それだと市場が儲からない。だから その辺のやつらを天才にしちゃおうとなったわけで、それがYouTubeでありTikTokである。
少し話は逸れるが、『スマートな悪 技術と暴力について』の中で、現代人が信仰する"スマート"とは賢さではなく速さのことだと書かれていた。速さってのは何事にも変え難い。どう考えても家で料理したほうがコスト的にも栄養的にも下手すりゃ味的にもいいのに、つまり「UberEatsでいーんじゃない?」となる。手っ取り早さは、あらゆる価値を凌駕する。
情報についても同じことが起きている。俺たちはなぜか、誰か知らないやつが誰か知らないやつにかけるドッキリとか、都内のコスパ最強食べ放題寿司3選とか、煽り運転痛快撃退ドラレコ動画とかを長い時間をかけて見ている。
情報を摂取する上で、本に書いてある価値の高い情報よりも、インターネットに落ちている価値の低い情報を優先しているのは、後者が単に"速い"からである。
だから、本を読むのが難しい時代になった。でも、時代のせいにするのはダサいので、なんとかして、なにがなんでも読むのである。
自分だけが得をする、または損をしない、そういう生き方を目指すのではあれば、読書なんてしなくてもいいかもしれない。でも俺が本を読むのは、このなんとも複雑で、面倒で、そして素晴らしい世界に積極的に関わり、できればもう少しだけ良くしたいと思っているからだ。
そのためには、社会がいかにして作られてきたか、他者はどのように思い、どのように生きているのか、間違いなく知っておく必要がある。
だから俺は本を読む。これまでもそうだったし、これからもそのつもりだ。
【告知欄】
スポーツが憂鬱な夜に というPodcastやってます。最新回は、青山ブックセンターに突撃してきました。初ゲストに、青山ブックセンターの山下店長を迎えて。