鳥の説話
白亜紀の地層から発掘された
鳥の化石に
こころが飛び立った痕跡が残っていた
こころと体が分離した
最初の事例として
記録されるだろう
鳥のこころは
体を棄て
墜落もせず
視えない風に乗って
息継ぎをしない魚のように
非在の空を羽ばたき続ける
庭の楓の枝に停まっている
シジュウカラは
音程をうまくとれずに
首をかしげた
このところ時々
枝から地面に堕ちそうになる
ブタペストの古城で
青銅になった鷲が
剣をつかんでいる
インカの神殿遺跡で
巨大な石の神となったコンドルが
生贄を待ち受けている
ハートはどこにある?
おなかのへんに七つあるの
胸がドキドキするあたりじゃなくって?
ハートはたくさんあるほうが優しくなるの
ほら もう十個に増えた
えっ おとうちゃんにはひとつしかないの?
鳥のこころは
夜の神戸に着くまで
一億年の海を渡った
欅に群れる椋鳥の喉を借りて
駅前のショッピングモールで
叫び続ける
体を置き去りにした
鳥のこころと
音程をうまくとれなくなった
庭のシジュウカラと
夏休みの課題で作った巣箱を
暗い森に隠してきた
少女の孤独が
時間の網目をくぐって
出会う時刻がある
秋祭り
初めて神輿の綱を引く少女の肩で
こころが翼を休める
鳥の説話が始まる
(詩集『月のピラミッド』第4章「ラバー・ソウル」より)