風の黄昏
朝したことが日暮にはもう
なつかしくなる
夕飯時はいつも時間をかみしめる
舌には味と呼ばれる
真似事の痕跡が残る
風景は多孔質になって
大切な部分が抜け落ちる
瘡蓋になった記憶を剥がすと
血の滲んだ焦慮が泡立っている
それはひとつの儀式である
夜には商店街に出掛けてみる
大売出しを染抜いた赤い幟
セルロイドの桜
店頭の数だけある看板
フルーツゼリーを二つ買ってみたりする
買い戻したいものがたくさん
あるような気がする
生存が異物になるのは
それからである
(詩集『夕陽と少年と樹木の挿話』第3章「遁走する春」より)