オィディプスとアンジェラ Ⅺ
少女は平場に着くとリラを置いて アンジェラに駆け寄った
少女は妹カリスだった 二人は抱きしめあって泣いた
オイディプスは気配から兄妹の再会であることに気づき呼吸を整えた
そして二人に声をかけた
ディプ 妹に会えたのだな・・・
カリス はい 妹のカリスです
カリスはオイディプスに歩み寄り彼の手を握りしめ頬を撫でた その感触と彼女から立ちのぼる香りで確信した
ディプ おお お前はこの私にガーランドを被せてくれた女人だな
カリスは言葉を発せ無いので オイディプスの手のひらに手文字で
<はい>となぞった
ディプ そうか カリスと言う名前か・・・とても良い名だ 確か神からの恵み多き者私もお前に会えて大変嬉しい
カリスは<ありがとうございます>と手文字で伝えた
そしてカリスはアンジェラに別れてからの出来事と今の境遇を手文字で書き綴った
又カリスは相手の唇を読むことが出来ていたので会話には困らなかった
アンジェラとカリスは3歳違いの兄妹 アンジェラが二十歳の時に大工の父親が急死 たちまち一家の生計が立ちゆかなくなり、アンジェラは思い立ち奴隷として我が身を売った 母は早くになくなっていたのでカリスは行商で各地を廻る叔母のシーアが申し出て引き取った 小さな荷車に多くの品を積んで各地を巡り歩いたそして このロードス島で叔母は急に意識を失い倒れた そこがこのオリーブ園だった 園主が気の毒に思いオリーブ園の収穫小屋の一角を二人が住めるように手配した
叔母は程なく意識が戻ることなく静かに逝き カリスはオリーブ園で働くことになった
全く声を出すことが出来なかったカリスだが この地の気候が良いのかハミングができるようになっていた カリスは24歳になっていた しかし小柄なこともあるがそのあり様は少女にしか視えなかった
長い兄妹の会話をアンジェラから要約だけを聞いたオイディプスは 自分が舞い踊れた現実と二人の会話の狭間で何かしらこゝろに響くものがあった
ア ン カリスは農園主の妻にリラの演奏を教えて貰ったそうです
音階や旋律で 仕事の取り決めが出来るのが良いそうです
ディプ なるほど・・・先程アンの笛を聴いてその旋律をなぞるように
リラを弾いたということはカリスの音感も優れているというこ
とだな・・・ならば二人で合奏をして欲しい 静かなゆっくり
した旋律からだんだんとテンポを早めて またゆっくりと静か
に終える・・・
ア ン はい・・・ですが旋律に合わせて踊られるより、ディプの身体
の動きに合わせて旋律を作る方が良いかと想うのですが・・・
どうでしょう
ディプ う~む・・・両方をやろう まずは二人の合奏を聴きたい
ア ン わかりました
カリスが微笑みながら頷いた 二人は向かい合って音を探り カリスの旋律に アンジェラが合わせるようにして 二人は演奏を始めた オイディプスは旋律を聴きながらまた想いに耽った
モノローグ 所作振る舞いに形而上の意味を与える?
禊ぎ 慈愛 道 いや・・・言葉を追いかけて身体表現する
のはどうか?
言葉は軆󠄁に情念を吹き込むことが出来る そうだ
詩をつくろう
象徴的な言葉を詩に昇華して その言葉のエネルギーで踊
ろう
オイディプスは<摺鉦>を手に持たずに 自身が発する言葉によって踊ることに挑戦した
光よ光 眩く光れ
そして光よ いのちを照らせ
光よ光 煌びやかに輝け
そして光よ いのちを正せ
この言葉のリフレインで念じながらオィディプスは静かに舞い始めた
Ⅻに続く