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同時刻 Ⅲ 昼


同時刻 Ⅲ 昼


▽同時刻:「正午(まひる)なり」という映画を思い出しながら,小学校の
 校庭で児童を待つ橘健二を、教室から1年生が彼を目指して走り込ん
 でくる。「今日も元気だね」こっくり頷き健二の手を握る子供。
 放課後ディサービスの仕事は好きだと呟く。

▼同時刻:営業で駅に向かって歩いていた雪原忍の携帯の着信音が鳴る 
   「はい」「私・・・私よ・・・」「誰?」「私よ・・・私!」
   「ああ、君枝さん、何だか声が違って聞こえたの、御免なさい」
   「馬鹿ね、私は君枝じゃないわ気をつけな!」
     
▽同時刻:人生の正午は転換期であり危機であるとある心理学者が言っ
     ていたことを思い出しながら夜勤明けのしょうがい者グルー
     プホームの世話人原田洋介は湯船につかりながら、「まあ、
     俺は午後3時か? ま~あだだよぉ-てね」

▼同時刻:ピンチョイスを知ってから、お昼の弁当はすべてピンチョイ
     スにした崎田瑠梨は、毎回同僚に腕自慢を見せびらかして、
     しかし一本もあげれないのでみんなが無視するようにり・・
     ・彼女は弁当を作るのを止めた。

▽同時刻:汗が噴き出す夏が大好きな田所慎二は、悩みがあった。
     目眩がするのだ。半端じゃない目眩が、突然来る。
     螺旋階段を降りていて目眩に襲われた時は、吐いた。
     MRIの脳ドックで医者は、
    「脳は綺麗なものです。精神科紹介しましょう」

▼同時刻:「黄揚羽蝶と黒揚羽蝶どっちが好き?」唐突な質問に
     「やはり黄かな。こんなことがあったんだよ」と おやつの
      アイスクリームを口にしながら同僚の中山千絵は歌を一首
      披露する。

片羽根を埋められても尚飛ばん蝶のいのち

イノセンスは罪



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