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オィディプスとアンジェラ Ⅵ
微睡みから覚めた王を見定めてアンはディプに近づき
ア ン 島迄小一時間もかからぬと思いますが・・・
ディプ そうか ではこれからのことを少し話そうか?
ア ン 何かお考えが既にあるのですね
ディプ もう一年前になるかな 東方からやって来た旅芸人の一座が来て
夜会を催し珍しい芸を観せて貰ったことがあるのを覚えている
か?
ア ン はい 覚えていますよ 確か「KAGURA」とかいって 笛や太鼓や
視たこともない楽器を打ち鳴らして 翁などの仮面を着けて舞
い踊っていましたね 大変リズミカルで躯がうずうずしたのを
覚えています
ディプ ア ン 君は絶対音感の持ち主だろう
ア ン どうしてそれを!
ディプ 彫金細工の工房で働いていた時 材料を秤で量るのをお前は目
盛りを視ながらも、微妙な音を探り当ててバランスを計ってい
ただろう
目盛りは念のためと言うより・・・微調整の間合いをつくる為
のものだった それを見届けたので工房から下僕に召し上げた
のだ 音楽に秀でた者が欲しかった
ア ン そうでしたか 何故私を下僕にしたのか合点がいきました
ディプ 知っての通り 私は舞が好きで 様々な楽団や踊り手を呼んで
は夜会を開いていたであろう
ア ン ということは・・・
ディプ そう お前はほとんどの楽器を演奏出来る その演奏に即して
私が仮面をつけて舞う まあ大道芸人として二人でやっていこ
うと考えたのだがどうだろうか?
ア ン なるほど 少なくともそれで幾ばくかの日銭を稼げて生が・・・
ほんとうのところはわかりませんが・・・何か出来ればいいで
すね
村から村へ 町から町へ南へ南へ下る
ディプ そう 旅芸人一座として名前を考えなければいけないなあ
ア ン なんだかわくわくしてきますね なんて名前が良いかな
ディプ ウラノスはどうかな?
ア ン 空ですか・・・う~ん(空を飛べたら)・・・
ディプ 私は盲しいた だが私は人の為に何かを為したい
それは小さなことでいい 一瞬でいい そしてそれが生きる力
の源に何らかのカタチで繋がれば・・・
ア ン それにしても、アポロンの神託によって 翻弄されなければなら
ぬとは・ ・・確かデルフィの神殿には神託を受ける者には三つ
の言葉がありました ね
汝自身を知れ 過ぎたるは及ばざるがごとし 誓約と破滅は紙一重
ディプは唯々一つの真実を知りたいが為に・・・
ディプ 父親殺しも母親と契るのも偶然の連鎖が一つの必然となる神託
によって 振り回され始まった物語
王を降りて 盲しいて なおいのちを歩む・・ ・それは・・・
それはいのちは全うしていのち
空になれば 吾はほんとうの吾になれるのか?
果たしてそうであるのか・・・歩む他はあるまい
Ⅶに続く