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下田最前線⑧命をいただく人の営み
先週、下田の里山にある「まるとうわさび」で「ズガニ祭り」が催された。友人知人など、計30名が集まり、朝からみんなで調理して、茹でガニとカニ汁、自然薯ご飯をいただいた。
ズガニの正式名称はモクズガニ。有名な上海蟹は近似種に当たる。
このズガニが、まるとうわさびの眼下を流れる須郷川で採れるのだ。10月解禁となり、まるとうわさびの4代目飯田智哉さん(写真中央髪の黒いほう)がせっせと網で採り、上流の自身のわさび田の清流で、泥抜きし、かぼちゃを餌に生かしておいたものである。これが120杯もいる。
挨拶が終わると早速調理開始だ。
子供たちの歓声が里山にこだまする。参加者は0歳から八十歳超である。
茹でガニは、湯を沸かすだけだが、カニ汁は、手が込んでいる。
足と胴をバラバラにして、要らない部位を捨て、ミソは別途容器に入れる。慣れればどうということもないが、カニの身体構造に慣れない人は、当然のこと四苦八苦だ。
こうしてバラバラになった身を、殻ごと何度もミキサーにかける。
そして外では、水から入れたカニがいい湯加減にほっこりとしたまま死んだ後で、一気に火を強火に薪をくべ、グラグラ沸かすこと10分。
片や中学生二人が釜抱きご飯の番兵をし、お年寄りと子供たちが、まずは自然薯の細いひげを燃やした後で、すり鉢で、自然薯をおろしていく。
カニが茹で上がり、冷ます間にカニ汁づくりが始まる。沸騰寸前に味噌を入れ、ネギや豆腐も投入し、そろそろ出来上がりだ。
全員で持ち寄った品々も併せて、青空の下の宴席に運ばれる。
「カニを採って、みんなで調理して食べるのは、命をいただくということです。命をいただき、命を繋ぐ。それが人の営みではないでしょうか?そんな当たり前のことを子供たちに伝えたい」
日々、わさび田の面倒をみながら、循環する自然界の法則の中で生きている智哉さんの言葉だけに、心に響く。
赤ちゃんや子供たちが天真爛漫な笑みを見せならカニをしゃぶり、長老が、「もうちっと、長生きしたくなったわ」とカニ汁を啜った。
カニ汁の底で、おぼろのようにほぐれたのが、ミキサーで作ったカニの身である。濃厚で美味い!
「……循環する自然界の命を、日々実感しています」
嫁いで20年になる奥様の雅子さんが、元東京在住の編集者だったとこの日初めて知った。そしてお二人のなれそめも。
彼女は、心の底から生きる悦びを感じているような表情である。
まるとうわさびでは、毎月第4日曜日に「縁側カフェ」も催している。
ご夫婦の自然と調和した暮らしに憧れる、そんな都会人も、きっと多いにちがいない。
まるとうわさびhttps://www.facebook.com/marutouwasabi