『スター・ウォーズ 続3部作』の楽しみ方 フォースの覚醒篇
2015年から2019年にかけて公開された続3部作について、振り返りつつ私の楽しみ方を紹介したいと思います。
記事は既に映画3部作(および過去の6作)を視聴済みの方に向けた内容になっています。また関連する未翻訳のものを含むスピンオフ作品の内容にも触れています。重大なネタバレを含みますのでご注意ください。
実写映画作品としては2005年の「エピソード3 シスの復讐」から10年ぶり、2015年12月に公開された「エピソード7 フォースの覚醒」の楽しみ方です。
「序文」でも触れていますが、続3部作はスピンオフ作品とあわせて読み解くのが面白いのではないかというのが私の考えです。
第1作目の焼き直し?
小さな組織が僅かな戦力で巨大な軍事力に立ち向かい大勝利するというこの映画の構造は一見すると映画第1作「スター・ウォーズ(エピソード4 新たなる希望)」のリメイクのようです。
「映画館でスター・ウォーズ再体験を」が企画の趣旨(=ディズニーが求めたこと)だったであろうと想像しますが、その興行成績からも大成功でした。
ですがこの作品の説明不足な部分を解読していくと、実は全く違うものに見えてくるというのが「フォースの覚醒」の面白いところだと思います。
約30年後の銀河
最初の映画(エピソード4)との大きな違いは「30年後の銀河は平和だった」という部分です。少なくとも映画の直前までは表向き平和な世界でした。
25年程前、帝国軍残党が最後の反抗を企みますが(現在ドラマシリーズで描かれている事件)新共和国軍に敗れて銀河外縁部の更に外側に逃れ、約20年かけて新国家を形成します。
映画の5年前に小国家ファースト・オーダー(FO)として公となりますが、非武装化の協定を交わしていて新共和国は彼らを脅威とは考えていません。
銀河内戦が終結し新共和国が軍縮を進めた結果、外縁部では海賊行為や犯罪が横行します。(アニメ「レジスタンス」)
調停者たるジェダイも不在で小さな紛争も多発していたかもしれません。元老院は2大政党が対立して泥沼化。諸問題は放置されたままとなります。(小説「ブラッドライン」)
そうした情勢のなかでFOが密かに軍備を整えじわじわと勢力を拡大します。
FOの反乱(←反乱しているのはFO側なのです)の目的は銀河の支配よりも「腐敗した中央政府の破壊」です。こうした背景はどちらかというと元老院の腐敗と不公正を訴えるため通商連合が蜂起した「エピソード1 ファントム・メナス」に近いと感じています。
ソロ一家の離散
反乱軍の勝利後、レイアは再び元老院議員となりソロはレースの監督者兼出場者をしながら輸送会社を経営していました。
そんななか、息子のベンがアナキンからの血を受け継いで天才的なフォース感応者である事が判明し、ダース・ベイダーのようになる事を懸念した夫婦は彼をルークのジェダイ寺院に預けることにします。これについては映画の中で二人が「自分達で対処するべきだった」と後悔しているのが印象的でした。
その後、敵対する極右政党の議員の策略により「ダース・ベイダーの娘である」という告発を受けて支持を失ったレイアは失脚。(小説「ブラッドライン」)ベンはスノークの陰謀で暗黒面の道へ。(「フォースの覚醒」小説版/コミック「ライズ・オブ・カイロ・レン」)ハン・ソロはレイアと離別します。
レイアは新共和国軍から独立した私設の自警団組織「レジスタンス」を立ち上げ、将軍としてFOの動向を監視しながら6年前に失踪した兄ルークの行方を捜しています。レジスタンスは新共和国から黙認され、秘密裏に支援を受けていますが、この事実もFOの新共和国への敵対心を煽っていることに注目です。
伝説の勇者ルーク
反乱軍の戦士として、また最後のジェダイとして皇帝を倒し銀河帝国を崩壊に至らしめたルーク・スカイウォーカーの名はジャクーの廃品漁りでさえ知っているほど銀河では伝説化してしまっています。
FOはルーツの怨敵であるルークが新たなジェダイを生むことを脅威と考え、抹殺することを重要な目的としています。
過去のルークや反乱軍の活躍で帝国が崩壊し銀河に平和と自由が戻りますが、民衆は与えられた自由を持て余します。その事に辟易するレイアの姿が小説版の冒頭に描かれています。
しかしレイア自身もまたこの状況打開を兄に頼ろうとしています。
それほどレジスタンスが追い詰められている状況と見ることができます。
戦争は人を偉大にはしない
Xウイングが大活躍するのも「エピソード4」との類似点ですが、やや様子が異なります。
レジスタンスが使うT-70型のXウイングのデザインは旧3部作のデザイナー ラルフ・マクォーリーの古いコンセプトアートのデザインを踏襲しているというのは公開時に話題になりましたが、映画の機体色は寒色系です。
また映画には登場しませんが、前日譚アニメ「レジスタンス」やコミックには新共和国軍の最新鋭機のT-85型が登場します。こちらも青を基調としたカラーリングになっています。
更にはポー・ダメロン専用機の赤いラインの黒い機体は、FOのタイ・ファイターと共通です。これは意図的な配色だと考えます。
旧3部作では反乱同盟軍が暖色系で帝国軍が寒色系、新3部作ではジェダイ率いるクローン軍が暖色系で敵のドロイド軍が寒色系という敵味方を分ける演出上の兵器の配色ルールがそれとなくありました。
本作では両軍の兵器が寒色系だったり邪悪さを感じさせる黒と赤の組み合わせになっています。これについては戦争を娯楽とせず兵器を礼賛するものではないという宣言のように見えるのです。「エピソード8」ではより具体的な形でこのことが示されます。
FOに囚われたレイが尋問される場面でカイロ・レンはレジスタンスを指して「人殺し」と言いますが映画の中では事実です。
映画序盤でフィンの目の前でトルーパーが血を流して死に、フィンは旗艦に戻るとすぐにヘルメットを外します。
これは旧3部作とは大きく異なり(最近ではアニメで徴兵制が明らかになりましたが、公開当時はストームトルーパーの正体は不明でした)「レジスタンスが敵対するトルーパーは明確に人間である」という描写になっています。しかも彼らは多くが幼少時に誘拐されて強制的に兵士として育てられた者達です。
なおFOに資金や人材の提供をしているのも新共和国元老院の支援者でした。(「ブラッドライン」)
戦争を描く事に関して過去のスター・ウォーズ作品もその時代時代の戦争や紛争を隠喩していたりしますが、続3部作は2010年代のリアルな視点でディテールを掘り下げているように見えるのです。
レジスタンスの過ち、彼らの罪と罰は続く「エピソード8」で描かれる事になります。
「力」は使い方次第
かつてジェダイが聖地としたイラムはライトセーバーの核となるカイバークリスタルが採れる惑星です。帝国はこの惑星をはじめ様々な惑星からカイバークリスタルを集め「デス・スター」のエネルギー源としました。(映画「ローグ・ワン」)
そして帝国崩壊後にFOが惑星自体を兵器化したのがスターキラー基地です。カイバークリスタルに喩えられる「力」は使い方次第で善にも悪にもなります。その善と悪を分けるのはモラルの有無です。先述の兵器の話にも共通しますが、フォースに限らず普遍的に宇宙に存在する「力」を人間がどう扱うかも「スター・ウォーズ」のテーマです。
かくしてFOはスターキラー基地からホズニアン星系の銀河元老院=中央政府を攻撃して破壊し、この時点で銀河は大混乱に陥ります。パワーバランスは逆転し、FOが隠していた強力な軍事力を解放して一気に支配を進めます。
フォースの覚醒
カイロ・レンとの接触を機にレイの強力なフォースの才能が発現します。
「エピソード9 スカイウォーカーの夜明け」ではレイの出自が判明しますが、クローンの失敗作だった彼女の父親デイサン(後述)では顕現しなかったルーツ由来の力です。「フォースの覚醒」の一つを指していると思います。
共和国の時代、ジェダイは様々な星で誕生したフォース感応者の子供をスカウトしていました。結婚は禁じられ子孫を残す事はできません。あるいは帝国の時代、シスは尋問官や賞金稼ぎを使って子供を誘拐し、従者として育成します。逆らう者は殺してきました。
稀少なフォース感応者は銀河に散在するのが自然な形でありながら、銀河が一つの巨大な国家体であったことやハイパースペースレーンの発達によってジェダイとシスが彼らを集め人為的に偏りを作っていました。
両者はアナキン・スカイウォーカーが破壊し、フォース感応者が銀河各地で無作為に育っているというのが「エピソード6」以降のスター・ウォーズの世界です。
戦後、ルークは銀河を旅して各地に残る土着のフォース信仰の調査なども行います。暗黒面や光明面に関わらず人間あるいは生命とフォースとの関わり方には多様なスタイルがあり、これまでもアニメシリーズやドラマで描かれてきました。
やがてジェダイはルーク1人となり隠遁、シスは未知領域で身を潜め(スノークもカイロ・レンも暗黒面の使い手だがシスではない)、カオス化しているという点を踏まえると前6部作との世界観の違いも分かりやすいと思います。
暗黒面の力が活性化し、再びフォースの均衡が崩れようとしたとき、覚醒した宇宙のフォースが銀河各地の人々に干渉を始めたという見方もできるのではないかと思っています。
2人の主人公
続3部作の主人公はレイとベン・ソロです。
レイアは自分の子が善悪両方の可能性を持って生まれた事を知っていました。そのため、祖父の事をあえて伝えずに育てます。やがて強力なフォース能力を見せ始めたベンをルークに預けることに。
こうしたベンの動向は全てスノークの計画に基づくものでした。スノークは早い段階からベンが秘める可能性を把握していたのです。
レイアとハンはベンに祖父についての話を伝えることをルークに託しますが、彼も伝えることはできず、結局のところベンは母の失脚によってジェダイ殲滅を進めた祖父のことを知ります。
映画冒頭でポーにルークの地図を渡すロア・サン・テッカはルークとパダワンのベンと共に銀河各地に残るジェダイの遺跡を巡りました。ルークは残存するジェダイやシスの知識を集めることに躍起になるのですが、スノークはその隙を突いてベンと交流を続け暗黒面の道に進ませます。
巨大なホログラムのスノークがカイロ・レンに「(捜索中の)ドロイドがファルコンに乗っている事」を伝えるシーン、小説版ではベンが「ベイダーの最期」についてスノークに歪められた話を吹き込まれています。
この場面、スノークが「ベイダーの最期=アナキンの帰還」を知っていて彼がやはり「パルパティーンと深い関わりがある」という事がこの時点で示唆されており、そのため映画ではカットされたのではないかと推測します。
会話の流れで映画では意味が解りづらい(カットされたため?)「(闇の力を)お示し下さい、我が祖父よ。あなたの始めた事を終わらせるために」の意味が「ジェダイを倒す事」=ルークとレイを殺す事だと解ります。
※「スカイウォーカーの夜明け」小説版でも改めて明言されている。
ベンは闇と光/善悪に揺れる存在で、レイと対になる主人公です。純粋なベンは仮面で顔を隠し、一生懸命に暗黒面に徹しようと励みますが、常に光明面のフォースの影響下にもあります。
光を振り払うため、ベンは試練に臨みます。
レイの正体
レイがジャクーにいた理由は2022年の「スカイウォーカーの夜明け」のスピンオフ小説作品「シャドウ・オブ・ザ・シス」(未翻訳)で語られています。
詳しくは「スカイウォーカーの夜明け」の記事で紹介したいと思っていますが、パルパティーンが命を長らえさせるための器として作られたクローン(しかし失敗作でフォースを操る能力は無い)だったデイサンはエクセゴルから逃走後、ミラミアという女性と出会います。彼女との間に生まれたのがレイでした。
ハンターが迫りジャクーから脱出したというのが物語の始まりです。ある事情で銀河を旅していたランド・カルリジアンがこの事件を知り、ルークと共にカルト組織に追われる家族を探して旅立ちます。
紆余曲折の末に夫婦はジャクーに戻り、レイを守るため馴染みのアンカー・プラットに預けて去っていったのでした。
レイの正体は「パルパティーンの遺伝子を継ぐ者」です。
「スカイウォーカーの夜明け」で明らかとなり、当時は場当たり的にラスボスとしてパルパティーンを復活させてレイの出自と関連付けられたのではないかと私も含め多くの人が推察していました。
しかしスカイウォーカーの血統に苦悩するベン・ソロとのダイアドな関係性や、ベイダーを父とするルーク&レイアとの師弟以上の関係を築いていく理由としてもこれ以上の設定は無いのではないかと今は思っています。
終盤のカイロ・レンとのライトセーバー戦も改めて見ると、険しい表情や荒々しい戦い方にダース・モールやパルパティーンを感じます。
随所に見られる暗号的な「ファントム・メナス」との設定・演出の類似、小説版での記述、メイキングにある情報に加えてスピンオフの内容とそれらのリリース年を調べると諸々の設定は後付けではなく当初からの(監督やIPDGのみが共有していた)計画だったのではないかと考えるようになりました。
また、「力とバランス」「反戦」「家庭や教育の重要性」「悪は作られるもの」といったテーマもルーカスの思想に通じます。監督やスタッフはルーカスと彼のスタイルの排除に応じながら、まるでダヴィンチ・コードのように巧妙にルーカスイズムを編み込んでいたのではないかと感じています。ただの思い込みと勘違いかもしれませんが。
まだまだ新たな発見と楽しみ方は尽きないのですが今回はこの程度で。
特に映画の小説版は旧作も含めて一番のガイドブックになっています。理解が捗りますので興味がありましたらぜひ一度読んでみてはいかがでしょうか。「ブラッドライン」もオススメです。
続3部作がジョージ・ルーカスの6作に劣るのは私も感じるところですが、駄作ではないですし多くの人が楽しんだというのは興行成績が示しています。
ネットの刺激的で安直な批判記事にはくれぐれもご注意を。
「エピソード8 最後のジェダイ」の楽しみ方に続きます。