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案山子(かかし)

最近、案山子をとんと見かけなくなった。
私が子供の時分-昭和40~50年代頃は、まだまだいたるところで案山子が活躍していた。
作り方も、農家の人たちの個性の見せどころで、白いてぬぐいに「へのへのもへの」の顔を描いた古典的なものから、マンガやアニメのキャラクターを模したもの、洋装店でいらなくなったマネキン人形の首を流用したものまで、いろんな案山子が鳥避けの技を競い合っていた。
個人的にはマネキン首の案山子は、鳥だけでなく私までドキリとしてのけぞってしまうので少々苦手ではあったが。

案山子が日本だけのものじゃないんだなあ、と思ったのは「オズの魔法使い」を読んだときのこと。
ドロシーと一緒に旅するメンバーに、ブリキの木こり、ライオンとともに案山子が含まれているのを見て、あぁアメリカの農場にも案山子はいるのだなあ、と思ったものだった。きっと広大な麦畑とかとうもろこし畑を守っているのだろう。
そういえば、ダイアナ・ウィン・ジョーンズの「魔法使いハウルと火の悪魔」にも案山子が出てくる。
ハンガリーの作曲家バルトークのバレエ音楽にも「かかし王子」というものがある(「木製の王子」と訳す場合もあるが)。これもおとぎ話のようなストーリーだ。
そう考えると、西洋でもファンタジーの常連になるくらい案山子は人々に親しまれる存在なのかもしれない。

日本で案山子を見かけなくなった理由としては、都市近郊からめっきり田んぼが減ってしまったことがまずあげられるだろう。
しかし、田んぼのあるところに出かけて行ったとしても、案山子が立っている光景を目にすることは滅多にない。
キラキラ光るテープとか、風に吹かれてゆらゆら動く風船とか、鳥たちを追い払うのに、案山子より効果的な手段は他にいくらでもあるのだろうし、ああいうものが田んぼの中に差し込まれていると、機械で収穫するときに邪魔になってしまうのかもしれない。

そして、最近、気になるニュースを見かけた。
「スズメが減少している」
スズメが減った原因はとしては、環境汚染や生育環境の変化、巣作りに適した人の住宅様式の減少などいくつもの要因があるようだ。
確かに、以前はいくらでも見かけたスズメが、極端に少なくなっているような気がする。
収穫前の稲穂をついばむスズメたちが減ってしまった以上、案山子たちの役割そのものが失われてしまったのかもしれない。
スズメは、農家にとっては作物をつまみ食いする害鳥であると同時に、害虫などを食べてくれる益鳥でもあった。
スズメが減ったことで、害虫が増えたとしても、虫たちは案山子にびっくりして逃げてくれないから、やはり案山子の出番は無くなっていく一方なのだろうなぁ。

時代の変化で、農作業の風景も変わるのは仕方がない。
しかし、黄金色に稲穂が揺れる、その上空をスズメたちが元気に飛び回り、案山子が“やんわり”と彼らをおどしつけるのどかな農村の光景をもう一度見てみたいものだ。

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