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嵯峨野の月

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嵯峨天皇と空海が作った「日本」の物語。 昔、日の本のひとは様々な厄災を怨霊による祟りと恐れ、怯え暮らしていた。 新都平安京に真の平安をもたらす二つの日輪、嵯峨天皇と空海の人生を軸…
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2024年1月の記事一覧

嵯峨野の月#135 観月

嵯峨野の月#135 観月


第六章 嵯峨野18観月

平安初期の日ノ本は、誰の子に生まれたかでその後の人生が大体決まってしまう厳然とした階級社会であった。

貴と賎。富と貧。

そして勝ち組と負け組。

という対極する二種類で人間は分けられていてそれを仕方のないことだ。と疑問を持つことも憤る事も無く民たちは今いる環境の中で死ぬまでの期間を生きたこの世情で、

かつての政変の負け組として処刑された南家の藤原巨勢麻呂の孫に生ま

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嵯峨野の月#134 胡蝶

嵯峨野の月#134 胡蝶

第六章 嵯峨野17胡蝶

淳和院は平安京の右京四条二坊(現在の京都府京都市右京区)にあった淳和天皇の離宮であり、

退位後、皇族としての義務を果たした淳和後上皇は正妻の正子内親王と共に気楽な隠居生活を送っていた。

が、七年後の正月行事が終わる頃から後上皇は風邪をこじらせ寝込んでしまい、正子の看病のもと病床で過ごすふた月間、

五十を過ぎた自分の人生もこれまで。

と思い親王時代からの従者である藤

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嵯峨野の月#133 円仁の旅・迫害

嵯峨野の月#133 円仁の旅・迫害


第六章 嵯峨野16円仁の旅・迫害

あの昏い道をくぐり抜ければ、きっと次の道標が見える。

松明の明かりを頼りに山道を登っていく彼の心に不思議と怖さも迷いも無かった。

頂に建つ庵の戸を夢中で叩いて寺男に通された部屋でまるで彼が来るのを待っていたかのように徳一和尚が出迎えてくれた。

「もしかしたらお前が来るんじゃないか、と思ってな。最澄の秘蔵っ子円仁よ」

師僧の長年の論敵にして法相宗を束ねる

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嵯峨野の月#132 円仁の旅・使命

嵯峨野の月#132 円仁の旅・使命

第六章 嵯峨野15円仁の旅・使命

…の名は…きね…

と沈みそうな意識の中で耳元で誰かが囁き、途端に自分が浸かっている湯の首元から白衣を伝って赤い液体が滴り落ち、それが浴槽全体に広がっている。

これはまさか、血?

うあ、あああああ…!と両手をばたつかせる師僧の肩を強く揺さぶり、

「まったく…湯に浸かりながら居眠りするのはやめて下さい、って何度も言ってるでしょ!」

と弟子の惟暁がきつく叱っ

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