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嵯峨野の月

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嵯峨天皇と空海が作った「日本」の物語。 昔、日の本のひとは様々な厄災を怨霊による祟りと恐れ、怯え暮らしていた。 新都平安京に真の平安をもたらす二つの日輪、嵯峨天皇と空海の人生を軸…
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2023年11月の記事一覧

嵯峨野の月#124 天長二年の旅立ち

嵯峨野の月#124 天長二年の旅立ち

第6章 嵯峨野8天長二年の旅立ち

いいいですか?せーの。

という合図と共に真新しい木の匂いが充満する講堂内の四隅に一斉に明かりが灯され、現れたのは…

壇の上の東西南北で武器を構える四天王。

東北を守る多聞天と持国天の間には四羽の鵞鳥が支える蓮華に乗った梵天と、南西を守る広目天と増長天の間に、像に乗った帝釈天。

壇の中央で蓮華座に結跏趺坐し、宝冠を被り、瓔珞(首飾り)、臀釧(足飾り)、腕釧

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嵯峨野の月#125 夫人たちの夏

嵯峨野の月#125 夫人たちの夏

第6章 嵯峨野9夫人たちの夏

藤原冬嗣が氏寺である興福寺の南円堂に詣でたのは天長三年の春のこと。

そこに安置された胸前で二手が合掌し、二手は与願印を結び、その他の四手には、羂索や蓮華・錫杖・払子を持す。

一面三目八臂(額に縦に一目を有する)の不空羂索観音を拝すると制作にあたった仏師集団椿井氏の頭であり今は出家して法眼という職人の最高位である役職に就いた仏師、椿井双に向かって、

「空海阿闍梨

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嵯峨野の月#126 頭の冬嗣

嵯峨野の月#126 頭の冬嗣

第6章 嵯峨野10頭の冬嗣

藤原冬嗣が東大寺の別当に任ぜられたばかりの空海のもとを訪ねたのは大同五年(810年)の夏の終わり。

当時朝廷は即位間もない嵯峨帝の親政が始まったばかりだが、

平城上皇の寵姫、藤原薬子が天皇の勅書を取りまとめる官僚の長である尚侍のままであるのをいいことに上皇の勅書を濫発して親政の邪魔をし、勅書の山を前に

帝と上皇、どちらのに従えばいいのか?と臣下たちが頭を抱える

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嵯峨野の月#127 心の中の明王

嵯峨野の月#127 心の中の明王

第6章 嵯峨野11心の中の明王

弘仁六年(815年)夏、陸奥国。

晴れた青空のもと身の丈五尺越えの少年がもろ肌脱いで四股を踏み、

「さあさあ八卦よい!我との素舞に勝ったら豊作だぞ!」

と田植えの手伝いを終えたばかりの子供たちに向かってがばっ、と両腕を広げて見せた。

古来より相撲は素舞と呼ばれ神に礼し、邪を祓い、鬼を追う舞踏であり四股とは足で大地を踏みつけて地下の邪気を祓う呪術である。

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