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認知症の話3 紳士淑女に幸あれ

印象に残っていることがあります。

今の病院で勤める前は、別の病院の認知症デイケアにいました。

デイケアは、作業療法や歌、体操といったプログラムが中心ですが、ところどころ自由時間があります。

一番自由時間として長いのは昼食後の昼休みでした。

一時間、お話をしたり、少しうとうととしたり(昼夜逆転にならない範囲でですが)、テレビをみたり、自由に過ごしていただきます。

ただ、一時間って結構長いのです。そして、昼食後ってなんとなく一区切り感があって、「じゃ、そろそろ帰ります」と言い始める方もいます。

その場合は休憩のあとも一緒に過ごすことを説明したり、退屈しのぎに作業療法で使う塗り絵を塗っていただいたり、集めておいたチラシを渡して卓上ゴミ箱を作っていただいたり。

そんなことをスタッフも一緒に皆さんとお話しながら取り組むのですが、やっぱり、スタッフとしては楽しく時間を過ごしてほしい。

様々なプログラムも大事ですが、それもただ淡々と行うだけでは意味がありません。情緒的な刺激となり、心に動きを与えるからこそ意味があるものになるのです。もちろん、自由な会話もそうです。

「ご本人が楽しい話題をどう掘り当てるか…?!」ということをあの手この手であたりをつけたり、その方に受けやすいユーモラスなくだりや話し方も、ご本人を見立てつつ、徐々に体得していきます(若手の心理士の下手な話に、皆様にお付き合いいただいた、という面も多々あったと思います。皆様の胸をお借りしていました)。

楽しそうに話してもらえたり、私の話で笑ってくださるお姿をみると、とても嬉しくなります。

ただ、認知症の症状が進み、徐々に思い出せる記憶が限られたり言語理解が低下すると、話を膨らませることがなかなか難しいこともあります。

どんな話題を振っても、にっこりと笑ってくれて二言三言は話してくださるけど、本人が楽しいと思ってそうしているというよりも、愛想笑いに近い。その場にいることが、苦痛なわけではないのだろうけど…。

そんな様子のある女性患者様をみて、ふと「そういえば化粧用品があるな」と思い出し「お化粧しません?」と聞いてみました。

「えー、いいよー!」と遠慮されましたが。お、なんとなく表情がいつもより明るい?作り笑いというより弾けるような笑顔。

「ちょっとやってみましょうよ」といそいそと化粧道具を準備。化粧道具といっても大それたものではなく、何かの折に買って保存していた100均の化粧道具です。

アイシャドーを塗り、眉を描く。

鏡をみせると「わあ・・・っ!!」と想像以上の笑顔。

キラキラした、少女のような笑顔。

正直、驚きました。こんなに効果があるとは。

随分長くデイケアを利用されていた女性患者様ですが、やはり徐々に認知症の症状は進行します。変わらない笑顔もあるものの、静かに座っている時間が増えてきていました。

久々の天真爛漫な笑顔に、こちらが嬉しくなりました。

その後は、その様子をみていた別の女性患者様も加わり、一緒にお化粧して過ごしました。

身だしなみを整えることやお洒落には、ご本人の明るい気持ちを引き出すパワーがあります。

街に、お化粧やネイルを前面に押している女性向けのサロンやデイサービスがあるのも、納得です。

もちろん、女性だけではありません。男性の場合、ひげを剃る、帽子を被るといった身だしなみやお洒落をすると、きりっとかっこいい表情になる方が多くいました。

周囲は、明るいポジティブな声掛けをすることも大事です。「そんな格好してたらみっともないから」なんて言われて促されても、誰も素直に頷けませんよね。

緒にお洒落を楽しみ、「素敵ですね」と心からお伝えする。こちらに心がこもっていれば、その気持ちはご本人にも伝わります。

お洒落をする時間は、ささやかながらも一緒に幸せな気持ちになれる瞬間です。

素敵なネイルをしている方に「素敵ですね」と伝えると「娘が遊んでたのよ」と、少し恥ずかしそうに、でも嬉しそうに教えてくださいました。

落ち着いて座ることが辛い方に、お花の髪飾りをつけてもらってカメラを向けたら、チャーミングにダブルピースをしてくださいました。

その笑顔をみたら、素敵な紳士淑女の皆様に幸あれ、と願わずにはいられません。

皆さんも、大切な人とお洒落をぜひ楽しんでくださいね。

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