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茶色いお弁当とチーズと、ドアスラム

私は、大抵のことじゃ怒らない。
気は短いし、SNSではちょっとした意見の相違があればすぐにユーザーをブロックしてしまうほど、器が小さいのに、人前では絶対に声を荒げることはない。

それは、自尊心が低いからかもしれない。
自分を大切にできなさすぎて、傷つけられることを言われても、まぁそうだよなと最初から受け止めてしまう。
最初にグサリと傷ついて、じわじわと心の奥の方を抉られ続けていく。
しかも何年も。

そんな私でも、唯一許せないことがある。
自分の周りの人を傷つける発言だ。

私が許せなかったのは、高校時代と大学時代の友人に言われた2つの言葉。

高校時代、私は毎日母親にお弁当を作ってもらっていた。
偏食気味な私に合わせたこと、朝早くから夜遅くまで働きづめだったこと。その要因が合わさって、お弁当の中身は冷凍食品ばかりだった。
同じ物しか食べず、加えて少食の私からすれば正直それがかなり有難かったし、いつも同じ食品ということに安心感さえ覚えていた。

それに、私は当時IBS(過敏性腸症候群)という症状に悩まされていたこともあり、とにかく食べて腸を動かしてしまうことに不安感を覚えていた。
授業の時、朝礼の時、テストの時、模試の時。自分のお腹の音、唾をのみ込む音、腸が動く音が気になって、なぜかおならが止まらなくなった。
結局その症状は学生時代を終えるまでまったく治らなかったし、確定診断を受けられることもなかったけれど、その時は「何も食べないでいる」という安心感と、「母親を悲しませたくない」という気持ちをいつも天秤にかけては、答えの出ない問題を1人で悩み続けていた。

今でこそ、母親の未熟な面も理解して付き合い方を考えるようにもなれたけれど、当時は母親を悲しませないように立ち回ることに最善を尽くしていた。
そんな時に、いつも一緒にお昼を過ごしている友人がふと放った一言が、私は今でも許せないでいる。
「依夜のお弁当っていつも茶色で、なんかまずそうだよねー(笑)」

友人の性格から、悪気なく言った一言だとはわかったのだが、その友人とは高校卒業後はだんだんと連絡を取る機会が少なくなっていった。
その代わり、私は大学で出会った友人との遊びに現を抜かすようになっていった。
コミュ強、陽キャ、アウトドア。話せば話すほど、知らない景色を見せてくれる友人と、私はここで様々なことを学ばせてもらったような気がする。

使えるお金が増えたからか、友人と遠くのお店に行って食事をしたり、買い物をしたりと遊べる範囲が広がって、毎週のように全休の日はどこに行くか、なんてことを話せる喜びを味わっていたことを思い出す。
たった週に3回、1日3時間くらいしかアルバイトはしていなかったけれど、「社会に出てから学生として勉強をしに行く」という大学生ならではのメリットを存分に味わいながら、そんな自分に酔っていた時期だった。

この時はまだ実の父親とも連絡を取っていて、年に数回会うたびに私は好きでもない高級レストランに連れて行かれていた。
父親は何故かその店で食事をする度に、私が友人を一緒に連れてくることを望んでいて、隙あらば私にこう耳打ちした。
「お金は出しておくから、友人も連れて、今のうちに社会にいる大人の人たちと関係を作っておきなさい」

色々な場所に行きつくしたのか、はたまた私がお金がないとごねたのかはハッキリと覚えていないが、いつの日か、その友人と遊ぶ場所が決まらなかった時があった。
本当は父親の言うことなんて聞きたくもなかったのだが、この時ばかりは仕方ないと思い、渋々友人をその店に誘った。

チーズが売りで、店内もインスタ映えしそうな雰囲気、女子会にもバッチリの場所。別に、悪くはない。
最悪、父親に行ったことを報告すれば何か褒められるかもしれないし、お金も出さなくていいしで損はしないだろうという、淡い期待も持ちながら。

それから数日が経ち、前日になって友人から連絡が来た。
「やっぱ行くのやめにしない?面倒くさくなってきた(笑)」


私の両親は毒親だと思う。
はたして本当にそうなのか?と自分の考えを疑うこともあるが、何度も自尊心を傷つけられ、死んでしまいたいと思ったこともある。
人生を狂わせられ、考えを否定され、今、こんなにも卑屈な人間として育ってきてしまったのは、きっと私だけのせいじゃない。

それでも、私が傷つけられた時よりも傷ついている自分がいた。
親(の考え)を否定されるということ。
言葉では表せない、怒りが間違いなく私の中に存在していた。

昔からそうだった。
自分という存在よりも、自分という存在が散々な目に遭って悲しんでいる両親の存在を悲しんで、私はいつも涙を流していた。

私のMBTIはINFJだ。嫌いなのに、お人よしが邪魔をする。
0/100で生きてるくせに、人間関係ではハッキリ言えない。
そういう甘いところが大嫌いでもある。

だけど。

数か月前、私は「人間関係の断捨離」という名目でLINEのアカウントを消す、大量のドアスラムを行った。

10年ほど積み重ねてきたデータ。
父親にプレゼントされたスタンプ、大学の講義の資料、修学旅行の写真。
そして、80人ほどの友だち(という名の他人)。

すべて、今の私には必要のないものだったからだ。
ありったけの勇気を振り絞って、消去のボタンを押した瞬間は未だに忘れられない。

2人の友人とは結局、関係を絶った。同時に、1人の父親とも。
この日、私は自分で自分のMBTIを証明することになった。

大学時代の友人は、私と出会えて良かったと思ってくれていたし、親にもいい子に出会えてよかったねと言われていたらしい。
でも私が幾度となく傷つけられて、悲しんでいたことをあなたは知らない。
だから、私は私を守ることを選んだ。

少し勿体ない考え方かもしれないけれど、たった一言が、関係を存続するかどうかの決め手になると思っている。
別に、小さい人間だと言われてもそれでいい。

自分の周りの人を傷つけることは、誰だって許せない

多分、これは私の身に何があっても最後まで譲れないこと。


*以下、おまけ*
ボツになった部分です。
父親とのことを書きだしたら、徐々に腹が立ってきて筆が乗りすぎてしまい、本編からズレにズレまくったので敢えなくお蔵入りになりました。
あんまりいい気はしないのと、身バレ的な意味でも有料記事にしました。
本編に繋がる部分で切っているので、中途半端かつ短いです。
物好きな方(?)はどうぞ・・・

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