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パンチライン百科事典 p.10 -Beef Rap-

追悼 - MF DOOM

 昨日1月1日、正に2021年の開幕とともに私たちの耳に衝撃的なニュースが飛び込んで来た。それは"Your favorite rapper's favorite rapper"(皆のお気に入りラッパーのお気に入りラッパー)ことMF DOOMが2020年10月31日に亡くなっていたというニュースである。この数日間、本当に様々なアーティストがSNS上で彼の死を弔うポストをしており、彼がこれまでのヒップホップーシーン形成においてどれだけ重要な人物だったのかを再確認させられた。
 実際に、私も彼の作品との出会いがなければ、ヒップホップにおける歌詞の素晴らしさにここまで魅了されることはなかったと思う。当時、まともな英語力も無く、ましてやスラングだらけのヒップホップの歌詞を理解しようとすれば絶大な時間と労力を費やさなければならなかった自分に、それらのコストを顧みずひたすらネット記事とUrban Dictionaryを往復しようと思わせたのは、紛れもなく彼が生み出した数々のユニークなパンチラインだった。今回はそんな彼の、つい唸り声をあげたくなるようなシンプルで、且つパンチのあるラインを紹介しようと思う。

他のパンチラインを見たい方はこちら↓
パンチライン百科事典:https://plpedia.com


MF DOOM - Beef Rap 3:48〜

What up?
To all rappers: shut up with your shutting up
And keep your shirt on, at least a button-up

おいどうした?
全てのラッパーたちに告ぐ:いいから黙ってろ
そして服を着るんだ、少なくともボタン全留めでな
3:48〜

 まずこの曲のテーマは、当時のヒップホップシーンのラッパー達に向けたディスだ。特に50 CentJa RuleLil Wayneなどのタトゥーや筋肉を見せつけ、曲だけでなく見た目も売りにしていたラッパー達に向けてだと言われている。なぜなら、MF DOOMのそういった見た目を売りにしたラッパー達への嫌悪はかなり顕著であり、有名な話だからである。彼がいつもつけているマスクが正にそれに関連している。このマスクの秘密についてはRed Bull Music Academyでのインタビューにて彼が直接語っており、一部分だけであるが日本語字幕を付けておいたので是非そちらも観てみて欲しい。


 本題に戻ると、この曲は3つ目のバースの頭のラインになるのだが、バース開始の直前、ビートが一瞬止まる。そして不意打ち気味に「おいどうした、まだ終わらんぞ」と言わんばかりにMF DOOM"What up"(おいどうした?)と口火を切る。そして歌詞の"To all rappers"(全てのラッパーたちに告ぐ)にある通り、彼は標準を定め、”shut up with your shutting up”(いいから黙ってろと口撃を始めていく。この"Shut up""Shutting up"を重ねる表現は少し独特な表現で、基本的にはしつこく喋り続け、なかなか黙ろうとしない相手に向かって言う「黙れ」である。恐らく、彼は当時のいわゆる色物的なアーティスト像の形成を許してしまっているヒップホップシーン対して、かなり懲り懲りしていたのだろう。ちなみに、実はこれには元ネタがあり、アメリカのアニメである"Looney Tunes"「ルーニーテューンズ」の中で、あるキャラクターが”Shut up, shutting up”と言っているシーンが存在する。MF DOOMの書く歌詞にはこういったアニメやドラマ、映画などからの引用が多いのもその特徴の一つである。

 そして、そんなストリッパーの如く服を脱ぎ、ステージに立つラッパー達に対して彼は皮肉をたっぷり込めて、"And keep your shirt on, at least a button-up"(そして服を着るんだ、少なくともボタン全留めでなと言う。私はこのラインがたまらなく好きである。笑 「ンンアップ」の音の韻("Shutting up"と"Button-up"の部分)はこのラインをものすごくキャッチーな耳触りにしてくれており、彼の呆れて吐き捨てるような言い方で先に挙げた50 CentJa RuleLil Wayneといったラッパー達にボタンアップ(ボタン全留め)を要求するその態度は、こちらまで少し小っ恥ずかしくなる程の皮肉を感じさせてくれる。正直、当時の上記3組のラッパー達がボタンアップで服を着ているところを想像するとかなり笑える。実際に、彼のファンであるニューヨークのレジェンドラッパーMos Defもこの歌詞を読んで笑っており、その動画がYoutubeにアップされている。ちなみに1分46秒辺りが該当シーンになるのだが、歌詞を読む前に彼は"I bet a million dollars on DOOM against Lil Wayne"(俺はDOOM対Lil WayneならDOOMに100万ドルかけるぞ)と言っている。笑

 このような、シンプル且つキャッチーで内容も強烈なパンチライン程怖いモノはないと思う。そしてこのレベルのパンチラインを数え切れないほど生み出してきたのがMF DOOMというアーティストである。是非これを機に他の作品も聴いてみて欲しい。


P.S. 今回紹介したBeef Rapが収録されているMm...Foodのコンセプトがその名の通り"Food"「食べ物」で、もちろんBeef Rapのタイトルもそこに所以がある、というのは有名な話だと思いますが、もう一つMm...Foodというタイトルに隠された秘密を知っていますか?このMMFOODという文字を並び替えてみてください...何かが浮かび上がってきますよね...。


witten by じょん

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