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読書メモ/ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学

経営学者・入山章栄氏の書籍です。『世界標準の経営理論』が有名かもしれませんが、本書はそれより前の2015年に出版されました。私は過去に『世界標準の経営理論』の輪講会に参加させていただいたこともあって、気になって読んでみました。

ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学

著:入山章栄

本書は、「経営学は実際の経営に役立たないのではないか?」という問いに応える内容となっています。実務で戦略を検討する際、フレームワークの項目を埋めるように指示されることがよくありますが、それは本来の経営学理論に基づく戦略検討ではなく、単に情報を整理しているに過ぎません。

最大の問題は、フレームワークを埋めること自体が目的化し、それで戦略検討をしたと錯覚してしまう点です。

経営学の理論は、思考の軸として活用するものです。自分たちの戦略の確かさを客観的に確認するための物差しとして使うべきなのです。

競争戦略と戦略の型

競争戦略には、IO型、チェンバレン型、シュンペーター型といった競争の型があり、それぞれに適した戦略が存在します。特に不確実性が高いシュンペーター型の業界では、小規模な挑戦を試みる「リアル・オプション理論」が有効とされています。

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本書では、『競争の型を狭めるパナソニックと、広げたまま進むソニー』というテーマで両社が比較されています。

2012年、津賀社長が就任後、パナソニックはそれまで主力だった家電分野を大胆にリストラし、松下電工の事業ドメインを中心とした住宅・自動車関連へのシフトを進めました。これはシュンペーター型競争への深入りを避け、チェンバレン型(および一部はIO型)に軸足を戻したと解釈できます。

PART2 競争戦略の誤解  第3章 あなたの会社の戦略がうまくいかない、最も根本的な理由

一方、ソニーはパソコン事業を手放したものの、依然としてシュンペーター型に近いスマホやゲームを主要事業として位置づけています(2015年10月時点)。さらに、国内ではチェンバレン型、海外ではIO型に属するテレビなどの家電事業や、チェンバレン型に近いと考えられる保険などの金融事業も手がけており、多様な競争の型を持つ業種を内包しながら全体をマネージしなければならないという課題を抱えています。

PART2 競争戦略の誤解  第3章 あなたの会社の戦略がうまくいかない、最も根本的な理由

また、今後の自動車業界も、EVの普及によって一部がチェンバレン型からシュンペーター型に移行する可能性が考えられます。こうした変化に対し、長年チェンバレン型で戦ってきた企業がどのようにリアル・オプションの戦略を取るかが重要だと感じました。

両利きの経営

イノベーションを起こすには、知識の幅を広げる「知の探索」と、特定分野の知識を継続的に深める「知の深化」をバランスよく進める「両利きの経営」が求められます。本書では、両利きの経営を可能にする組織体制の構築が提案されています。

両利きの経営が可能な組織体制の構築が提案されており、そのビジネスに必要な機能(開発・生産・営業)をすべて持たせて独立性を持たせること、他方でトップレベル(例えば担当役員レベル)では、その新規部署が既存の部署から孤立せずに、両者が互いに知見や資源を活用しあえるように「統合と交流」を促すことが重要であるという主張です。

『新規事業推進室』や『イノベーションセンター』といった名称の組織がよく見られますが、近年ではBTC(Business/Tech/Creative)の機能を持たせた組織が新規事業を推進する例もあります。

しかし、こうした組織が本書で提案するような体制を備えているかどうかは疑問が残るものも多いです。トップレベルが他部門から独立している一方、開発担当者が部門間の調整を担っている現状は、上記の提案とは逆の構造といえます。

また、本書では『イノベーション』と『創造性』を区別して考えるよう述べられています。『創造性』は「弱いつながり」(知の探索)を通じて生まれ、異なる要素の組み合わせから新たなアイデアが生じます。この創造性が具現化されたとき、それが『イノベーション』になるのです。
たとえば、他業種交流会や勉強会に参加して弱いつながりを活かして人脈や知識の幅を広げる「チャラ男」的な人材が新規事業のアイデアを出すことがあっても、強いつながりを用いてそのアイデアを実現化する力が不足している場合があります。
しかし、組織の構成や人材のペアリングによってこの課題は克服できると筆者は述べています。本書では、このペアリングを「チャラ男」と「根回しオヤジ」の例で説明しています。

組織を意識せずに構成してしまうと、「チャラ男」だけ、または「根回しオヤジ」だけの偏った組織になりかねません。イノベーションのためには、強いつながりと弱いつながりの両方を持つ人材を揃えることが理想的だと感じます。イノベーションの実現には、多様性が欠かせない要素であると強く感じました。

組織学習論:トランザクティブ・メモリー

組織の学習力を高めるためには、直接対話の機会を増やし、トランザクティブ・メモリーを向上させることが重要です。

トランザクティブ・メモリーとは、組織の学習効果やパフォーマンスを向上させる際、単に情報を共有することが重要なのではなく、「組織メンバー全員が同じ情報を知っている」ことよりも、「メンバーが『誰が何を知っているか』を理解している」ことが大切だとする概念です。

たとえば、タバコ部屋のように、組織や役職を超えたインフォーマルなコミュニケーションの場がトランザクティブ・メモリーを強化します。本書では、日本企業がこうしたインフォーマルな交流機会を失いつつあることが懸念されています。

この書籍が発行されたのは2015年で、その後のコロナ禍を経てリモートワークが定着しました。私個人としては、人によってトランザクティブ・メモリーに差が出ていると感じています。これまで、自社でも従業員同士の交流機会や上層部との対話の場を設ける施策がありましたが、多くが一度きりで終わり、フォーマルな話題に終始する傾向があります。そのため、交流が継続的につながっているかは疑問が残ります。

マネジメントとしては、従業員が納得できる形で交流機会を増やすとともに、インフォーマルな対話を促進する複数の仕組みを整える必要があると感じました。(この書籍で紹介されていたように、オフィスの中央にコーヒースペースを設置するのもその一例でしょう。)

科学的に見るリーダーシップ

リーダーシップには2種類のタイプがあることや、成功したリーダーの事例が記載されています。個人的に印象に残ったのは、「カリスマリーダーは相手の五感に訴える」という内容です。

私たちは、イメージ型の言葉とコンセプト型の言葉を使い分けて話していますが、イメージ型の言葉を効果的に使いこなす人が、成功するリーダーに多いようです。これは、VAKに訴えかける言葉を用いるというNLP(神経言語プログラミング)の考え方にも通じます。

真面目に仕事をしていると、ついコンセプト型の言葉ばかりになりがちですが、相手に伝わりやすくするためにも、イメージ型の言葉を使って、五感(VAK)に訴えるよう心がけてみたいと思いました。

さいごに

今回の感想は書籍の内容の一部にすぎないため、今後気が向けば追記するかもしれません。

経営学を学ぶ環境について、例えば、MBAとPhDの違いだったり、世界の経営学者の動向だったり、経営学の本論とは関係ありませんが興味深く勉強になりました。

また、印象に残った点の一つとして、ハーバード・ビジネス・レビュー(HBR)は実践に近い論文が掲載されているため、ビジネスの現場で働く人にはHBRを読むことが推奨するような記述がありました。

理論を思考の一つの軸として取り入れつつ、HBRで現場に近い事例を学び、自分の働く現場で実践することで、少しずつ自分の力として身につけていきたいと思いました。


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