補中益気湯
補中益気湯には二通りの使い方がある。
1つはともかく元気がない、疲れやすい、四肢が怠い、動作がおっくう、眠くなる、頭がぼーっとする、息切れなど、何しろ元気がなくなってしまったとき。中医学では中気下陥という。
もう一つは慢性にくり返す微熱で精神的・肉体的疲労にともなって発症するもの。中医学では気虚発熱だ。
先日誰かがフレイルに補中益気湯と言っていて、ひえーとひっくり返ってしまった。加齢に伴うフレイルに補中益気湯は使わない。それは八味地黄丸だ。
昔、更年期障害のおばちゃんが補中益気湯を出されていたことがあった。精神科の医者が出したそうである。なんの薬と説明されました?と訊いたら元気が出る薬だと。おいおいおい、である。その人は更年期障害でのぼせたり冷えたりしているのだから、補中益気湯で元気を出そうとしたってそうは行かない。既に説明したように女神散などを使うべきである。
実はこの薬、李東垣(りとうえん)という名医が作ったのだが彼がこの薬を作った理由は今とは異なる。昔、李東垣が住んでいた金がモンゴル軍に攻められて籠城戦になった。その時城内で疫病が流行したという。その疫病には、それまで知られていたどの薬も無効だった。そこで李東垣は、これは籠城で食料が乏しく、胃腸が弱って体力が無いから疫病に勝てないのだと考え、それでこれを作ったのである。つまり感染症の薬だった。体力を付けて疫病に打ち勝とうというのが本来のこの薬の由来である。
ただ、李東垣が作った補中益気湯は、感染症による炎症を抑えるために柴胡の量などが今のエキスよりずっと多い。日本のエキス顆粒では、上に説明した効果しか望めないのである。