モズのはやにえリターンズー伊丹昆虫館企画展示(2024/01/28)
1.はじめに
おはようございます。こんにちは。こんばんは。IWAOです。2024年1月28日に伊丹昆虫館へ行ってきました。伊丹市の昆虫館へ行った目的は、今回の企画展である「モズのはやにえリターンズ」、つまり、モズの企画展示を見ることです。はやにえとは、どのようなものか、私も見たことはあり、知っているつもりでしたが、まさかこんなに深いものだとは、思いもしませんでした。今回は、はやにえ、そして、モズの魅力について解説していきます。どうぞ、よろしくお願いします。
2.構成
今回の企画展示は、主に、「はやにえって知ってる?」「モズってこんな鳥」「はやにえに秘められた謎」「モズのはやにえ300連発」「〇〇になったモズ」「善意のはやにえ」のように展示が行われていました。これらのテーマを私なりに設定して解説していきます。はやにえとは何か?(はやにえって知ってる?、はやにえに秘められた謎、モズのはやにえ300連発)、モズとは何者か?ーはやにえは何故作られるのか(モズってこんな鳥)モズと人ー文化的生物モズ(〇〇になったモズ)で分けて解説します。
3. はやにえとは何か?
皆さん、木の枝にムシやカエルがささっているのを見たことありませんか?はやにえは、「モズ」という鳥によって作られたものです。モズが、捕らえた獲物を木の枝に刺すことを「はやにえ」といいます。そもそも、はやにえ(早贄)は、その季節に初めてとられた作物や魚などのような「初物」の献上品を指す言葉でした。昔の人は、モズが捕まえたえものを枝に刺す様子を見て、「神様への棒げもの」と考え、モズのはやにえと呼ぶようになりました。
モズは、どのような生も物をはやにえにするのでしょうか?答えは、「色んな生き物」です。カエルや虫をはやにえにするイメージが強いのですが、カエルや虫「以外の生き物」もはやにえにします。ここでは、「モズのはやにえ300連発」というタイトルで、写真展示も含め、はやにえされた生物が展示されており、その中でも想像できないような生き物もいることとその多さに驚いました。その中でも、わたしが注目したものが2つあります。一つ目は、「魚が多い」ということです。
ここでは、ドンコ、オイカワ、カマツカ、ブルーギル、ドジョウのはやにえが、展示されていました。魚も、なんでもいいのではなく、遊泳性のあるもの、底生のものがおり、利用する魚の種類が多いことが分かります。カワセミみたいに潜りはしないが、増水し、取り残された生き物を利用しているそうです。モズが、水に生きる生き物を利用するが、水の生き物をガッツリ利用する生き物とニッチが被らないような利用をしている所に、この展示の面白さを感じます。
2つ目は、「モズ捕食性の高さ」です。モズというと、第一印象に、「虫」や「カエル」、「トカゲ」をはやにえにすするいう印象があるかもしれません。しかし、先ほど説明した通り、色んな生き物をはやにえにします。そして、はやにえにする生物は、「魚」以外の生物も当然、当てはまります。
その中でも、はやにえにしていて驚いたのが、モズよりも体が大きいまたは将来天敵になり得る生き物を獲物にしているということです。特に、「アオダイショウ」と「ウシガエル」のような、鳥の天敵という一般的なイメージを持つ生き物がはやにえにされており、それらを見た時は、本当に驚きました。実物展示は幼体でしたが、捕食者としては、頂点に立つものを襲うという、生態系ピラミッドを知る側としては、かなりのチャレンジャーだと感じました。何の種類かはわからなかったのですが「鳥の羽」というのがありました。実際、メジロやスズメのような鳥を襲うこともあるそうです。これら事例から自身よりも小さいのものだけでなく、同格または大きいものも襲うこともある「小さな巨人」または「小さきハンター」ということがわかるのではないでしょうか。
また、地上のものだけでなく、「地中のもの」や「水のもの」…と、獲物にするものバラエティーが非常に多いことに注目できます。一例としてミミズやスッポンのはやにえが展示されており、まさかスッポンまで繋がるとは思いもしませんでした。その上、写真だけのものでも、カブトムシやコガネムシの幼虫が餌になっていることもあり、展示になっているものだけでも十分凄いのですが、実物展示だけでは、獲物の多様性は、表し切れていません。彼らがハンティングをする領域の広さがわかります。つまり、モズは優秀なハンターであるということです。
モズは、自身よりも大きいオオタカのような猛禽類に立ち向かうこともあるそうです。縄張りに偶然侵入してしまったからか分りませんが、モズが、ハンターとして優秀な一面、自身よりも大きな生き物を餌できる理由というのが、感じられる話ではないでしょうか。『日本書紀の鳥』という著作にてオオタカに立ち向かう場面ではないかという写真があります。是非、ご覧ください。
このはやにえ展示で面白く、注目すべき点は、はやにえがとられた場所の「記録」です。この情報は、場所だけでなく「いつ」とられたかと時間での記録もあります。今年は2024年ですが、ものによっては、2009年と、そこそこ古いものもある。また、場所も「範囲」を絞り込んだ情報で、モズがどのようなはやにえを作ってきたのかは、注目されます。
後に説明することになりますが、はやにえは、「エサ」として利用されます。よって、モズが生息する地域には、少なくともエサ生物が生息しているということになります。どのようなはやにえが作られているのかという構成に注目した場合、はやにえからその地域には、どのような生物が生息しているのかという「生物相、または生態系」を間接的に知ることができます。はやにえになる生き物の種類が多ければ、その地域の生態系や自然は、豊かであることを示す一つの指標になります。つまり、その地域の生物がどれくらい多様なのかが分かります。ここからは、私の考えになりますが、時期での獲物の移り変わりがわかり、時期によってモズが獲物にする生き物を変えた場合、「環境」による変化で獲物を変えたのか、または、モズが「行動を変えた」のかなどとその原因を探ることの面白さがあるのではないでしょうか。
モズのはやにえは、モズの「ハンターとしての才能の高さ」を示す指標ですが、何が獲物になっているのかというはやにえの構成に注目すれば、「その地域の生態系の状態」が分かります。モズのはやにえは、見る角度を変えるだけで、見えるものが大きく変わるということがわかります。
4. モズとは何者か?ーはやにえは何故作られるのか?
そもそも、はやにえを作る生物は、何者でしょうか?当然、モズです。そのモズは、スズメ目モズ科に属するスズメよりも大きい鳥で、くちばしから目にかかる黒いラインと長い尾羽が特徴です。生息地は、全国の平野から山地の林緑や疎林、農耕地、河野林、市街地の公園や人家の庭などと広く分布します。つまり、私達の生活圏に非常に身近な鳥であるということです。また、「移動性が高い」というのも一つの特徴で、夏の時期になると「モズは避暑に行く」と言われるくらいです。高槻野鳥の会の調査では、高槻市内でモズの調査を行った際、5〜8月に個体数がかなり減ることが確認されています。ただ、高地へ移動する理由などは、まだよくわかっていないそうです。他にも、1年中ずっと低地で暮らすもの、冬は低地で夏は高地に移動するもの、冬は低緯度地方で夏は高緯度地方に移動するなどと移動のありかたも1パターンというわけではありません。繁殖期は、2月下旬から5月ごろまでになります。
モズの特徴はまだあります。それは「鳴き声」です。モズを漢字で書いた場合、「百舌鳥」または「百舌」となります。「舌が百」とあるようにモズは、漢字の通り、歌うことが非常に上手いということです。他の鳥の声を真似ることがあるくらいといわれます。
モズの鳴き声、その中でも見通しのいい木の枝の上から鳴く「モズの高鳴き」は、「秋一冬の風物詩」として有名です。モズの高鳴きが特に有名な時期である1~2月は、モズの繁殖期になります。繁殖期のオスは、美しい声で、頭を左右にふって、目の周りの黒いラインを見せてメスに求愛し、春から夏にかけて、オスのなわばり内の樹木のしげみに巣を作り、子育てをする。なおこの「繁殖期」と「鳴き声」の2つが、「何故、はやにえを作るのか」というこれまでの謎に大きく関わります。
〇はやにえは、何のため?
モズというと「はやにえを作る」ということでが有名で、「はやにえ」が代名詞のようなものだというのは、多くの人の理解に共通すると思います。しかし、「何故はやにえを作るのか」ということは、最近までよくわかっていなかったというのも事実で、冬の保存食を一番有力な説としつつ多くの理由が考えられました。そして、 2019年に西田有佑氏によってその謎がとかれました。
はやにえにおいて、非常に気になる現象があります。それは、「はやにえの消費時期が偏っている」ことです。下の図にあるように非繁殖期の10~12月にははやにえが多く生産されますが、「繁殖期直前の1月」にはやにえが多く消費されています。まだまだ寒くてエサの少ない2月を待たずに、はやにえを一気に消費するということは、「冬の保存食以外の理田」があると考えられるということになります。
モズに関する先行研究で、注目される事実があります。モズは、「繁殖期にオスが歌い、栄養状態がいいオスほどメスを獲得しやすい」という研究です。栄養状態のいいオスは、早口で歌うことができ、早口で歌うモズのオスは、メスを多く獲得できるということがわかっています。またモズは、2月から繁殖期に入ります。「早口で歌うことができる」と「繁殖期の直前にはやにえが大量に消費されている」という2つの事実から、はやにえが、繁殖期のモズに対して需要な役割を持っているのではと考えられました。つまり、はやにえは、モズの歌の質を高める働きをしているのではないかということです。
はやにえの消費が、メスの獲得に貢献しているのかを調べるために操作実験が行われました。オスの縄張り内のはやにえを除去した「除去群」、通常のオスが消費するはやにえの3倍量相当の餌を与えた「給餌群」、はやにえの数を操作しなかった「対象群」の3通りのモズを用意し、「歌唱速度」と「メスの獲得率」が調べられました。
検証の結果、歌唱速度では、上の図5では、はやにえが利用できない「除去群」に対して、エサを豊富に食べ、栄養が高いであろう「給餌群」と「対照群」の歌唱速度が速いことが確認できます。また、下の図6のメスの獲得率においても「除去群」と比べて「対照群」と「給餌群」の方が高いことがわかります。以上の結果からはやにえには、オスが歌唱速度を早め、メスを獲得する役割を持っていること、つまり、メスを獲得するための「栄養食」として機能していることがわかります。私が、別で注目したことがあります。それは「冬に繁殖をする」ということです。冬という季節は、日本の生き物のほとんどが、冬眠などで活動を止めています。それゆえ、多様な獲物を利用するモズが、冬という大事な時期に繁殖期を迎えるには、「獲物が利用しずらい」というのは、致命的な状況にあると思います。よって、「冬」という時期に繁殖するデメリットをはやにえで、補おうとしています。つまり、「冬というきびしい時期に重なった繁殖期に対するオスの適応策」であるということが、はやにえの研究から読み解けるのではないかと思います。
はやにえがなぜ作られるのかという目的がわかったことが、世紀の大発見になるのは、間違いありません。しかし、はやにえの役割を明らかにしたから、はやにえの研究が、終わるわけではありません。つまり、はやにえについて分かっていないことは、まだまだたくさんあるということです。
モズは、モズ科の中の1種類のみの生き物ではなく近縁種(EX:オオモズ)も存在しており、彼らもはやにえを作ります。オオモズの場合、多くのはやにえを作ることで、多くのヒナを養うことができることが分かっています。オオモズとモズと比べたら、はやにえを作る意味合いが違います。このように日本にいる近縁種や世界のモズのはやにえを比べた場合、「はやにえを作る意味は何か?」という種ごとでの「違い」や「差」についてどのようなものがあるのかが、わかっていません。もっと根本的な話をすると、「何故、モズがはやにえを作るようになったのか」、この理由は何でしょう?私は、「冬に繁殖期を迎えることと関係がある」と記述しましたが、「季節」と「はやにえ」に関係があるとは言い切れませんし、冬での繁殖の適応策というのは、現在のモズの置かれてる環境から推測した私個人の考察でしかありません。つまり、「モズがはやにえをするようになった行動の進化」について分かっていないということです。モズがはやにえを作るという生き物、特に、鳥類において非常に特異な生態を持つようになった理由とその進化を明らかにしていくことが、はやにえの研究の最大のテーマであり、課題なのではないかと私は、考えています。
*モズのはやにえの研究についての詳細は、下記のリンク先にその詳細があります。興味のある方は、こちらを是非ご覧ください。
5.モズとひとー文化的生物モズ
モズははやにえを作る生き物としての認識が強く、先ほど説明した名前の由来からももずというとはやにえの印象が強いことがわかります。また、モズは、人との関係も深く、「はやにえ」を除いてもモズという生き物が、人の世界でかなり親密な関係を作っきたことがわかっています。つまり、モズは「文化的な生物」ということであり、日本でどのようにモズが、扱われていたかを紹介していきます。
モズは、「歌」になることがありました。歌になり始めたのは、日本最古の和歌集である『万葉集』からになります。また、俳人として有名な小林一茶もモズを題材にした句があり、生涯に2万句残した内の20句がモズに当たるとされています。モズの歌を読んでもらえると「鳴き声」「秋」が、印象付けられると思います。モズは、俳句では「秋」を指す季語として使用され、「鳴き声」は高鳴きを指しています。これらのことから、モズが高鳴きを始めると「秋が来たのだ」と歌で表現していたことがわかります。「歌」の世界では、モズは「鳴き声」で、印象的な生き物であったということが分かります。
また、モズの高鳴きは気象庁生物季節観測において、高鳴きがいつ頃始まるのかを調べモズの早鳴きの情報を発信されていました。(*2020年に動物を対象とした観測は終了しています。)このことや歌のことも合わせて考えれば、日本人は、過去から現在において、モズの鳴き声を「文化的な娯楽」または「季節の変わり目」として見ていたことが分かるのではないでしょうか。
モズは、日本の地名にもなり、その地名は非常に有名な場所になります。それは、大阪府堺市百舌鳥になり、その代表格が、「百舌鳥・古市古墳群」になります。『日本書紀』にて、何故そこを百舌鳥と言うようになったのかの言い伝えが記述されています。また、モズは、120円と国土緑化運動のの記念切手としても描かれており、大阪府では広報担当副知事として大阪府のシンボルとして描かれています。
モズは、「絵」としての題材にもなり、絵として非常に有名なものは「枯木鳴鵙図」になります。この「画」の作者は、誰でも聞いたことのある「宮本武蔵」になります。多くの人が持つ宮本武蔵のイメージは、「剣士」ではないでしょうか。『五輪書』や佐々木小次郎との巌流島の決闘を第一に思い浮かべる人も多いかもしれませんが、宮本武蔵は、「文化人」でもあり、茶、書画にも非常に造詣の深い人であることがわかっています。
この「枯木鳴鵙図」は、どのような画なのか、画の収蔵先である和泉市久保惣記念美術館館長の河田昌之氏が『五輪書』に当てはめて解説されています。まず、画の位置に注目します。モズが上段で虫が中段、茂みが下段にいることがわかります。上にモズがおり、獲物を見下ろすようにしているということです。つまり、これを戦いに当てはめた場合、「相手と戦う時は、少しでも有利な位置を占めよ」ということを意味しています(『五輪書』「火之巻」の次第)。相手に立ち向かう時は、「まず静かにして次に即座に攻撃に移るとすること」(『五輪書』「火之巻」三つの先)を指し、モズが、獲物を捕まえる際は、静かにしてからすばやく獲物を取ることが大切であるとなぞらえてい流るように見えます。ここでは、簡単に紹介しただけですが、『五輪書』とモズの画が深く結びついていることがわかります。つまり、ただモズとその周りの風景を描いただけではないと言うことです。私たちが生きていく世界、または戦う場面をモズが生きていく世界に置き換えたものになるのではないかと、私は、感じました。
6.まとめ
以上が、「モズのはやにえリターンズ」の内容になります。私自身、モズというと「はやにえ」を作る鳥だということしか知識がありませんでした。しかし、モズというと「はやにえ」という象徴するものが、「何故作られるのか?」という肝心な所が、最近になるまで分からなかったというのは、非常に驚かされました。しかし、作られる理由を追求して満足するのではなく、まだ分からないこともありました。研究の最新の成果だけでなく、今後の動向も見ることができたのではないかと思います。はやにえの種類の多さから、モズの「利用する生き物の多さ」が分かりました。「エッ⁉︎こんなものも狩るの⁉︎」と驚かざるをえないものもあったと思います。私は、「はやにえ」の展示からモズというのは、「小さな巨人」「プロのハンター」で、モズの狩りの凄さを示す最大の魅力ではないかと感じました。そして、文化的にも多く利用されていることも分かりました。はやにえを身近で見ても、人との接点という意味では、盲点になっていたのではないでしょうか。モズという生き物が改めて人と「文化を作ってきた」ということを気付かされました。生き物というのはいるだけではなく、「文化を作る構成員である」ことを理解しなければならないと思います。
「はやにえとは何か?」を皮切りにして、「はやにえから分かること」、「モズとは何者か?」、「モズと人の付き合い」などと非常に幅広く、深く切り込んだ企画展示だったのではないでしょうか。「はやにえ」だけでなく、はやにえ以外の面魅力を知ることで、はやにえ以外で、モズを知る、見る機会は少ないかもしれません。しかし、身近だでも「見られていない・気付かされていない魅力があること」、「知られてないことがたくさんあること」、これらを教えてくれる企画展示だったと思います。
以上になります。ここまで読んでくださり、ありがとうございました。また、次のブログで、お会いしましょう。
*私は、過去に伊丹昆虫館に訪れています。その時の記録もあるので、そちらも是非、ご覧ください。
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