夏が夏と気づくように、僕たちもまた自分自身のことについて気づかなければならない。 この町から、柏木陽子がいなくなってから3週間が経つ。いなくなってから1週間はみんな思い出を思い返したり、痕跡を見て想いに耽ったりしたが人とは慣れていく生き物なのか暫くするといつも通りの日常の一部に溶け込んでいく。 僕もまたその中の1人であった。 柏木陽子とはたまたま隣の席であったくらいで親しい仲だったわけではない。 いなくなったと知ったのも朝のホームルームで担任の教師からだった。 いつも自分
覚えていますか。君は今何をしているだろう。 私は、東京に出て音楽をやっています。シンガーソングライターってやつよ。親には出るまで反対されたけど、私自身で決めたこと、後悔なんてしていないです。 今はまだ、小さい箱を転々と回っているけど、いつかは有名になって君の耳にも届くようになっているといいな。近くのスーパーとかで流れちゃったりしてね。 こっちの生活にはもう慣れてきました。都会の夜はとても明るくて、花火大会の帰りのように賑わっています。 だけど、賑わってはいるんだけど、どこか
放課後、夏の暑さが過ぎ少し肌寒い。だんだんと日が落ちていく時間が早くなっていく。 あぁ寒い寒い。美術部の部活の帰り、ポケットに両手をっつこみながら家路を歩いていた。もうすぐコンクールがあるためいつもより長めの部活動だった。日没が早いから家に持ち帰ってやってもいいのだが、僕は美術室で描いている時間が好きだから遅くまで残ってやっていた。ほかの部員は僕が作業をしている間にすでに帰っていたみたいだ。 没頭しすぎて気づかなかった。 田舎にある学校に通っているため、帰り道に買い食いがで
微かに瞼のすき間から差してくる光で、徐々に朦朧としていた意識が鮮明になっていく。 (ん…なんだか体が重い…俺は倒れていたのか…?) 視界がまだぼやけている中、周りでガヤガヤと賑わっている音が鼓膜を突き刺した。 「はーい!すき間を埋めて一列で並んでくださーい!」 「こちらは期間限定のピックアップガチャになってます!」 「有償ガチャはこちらですー!」 辺りから、何人かが声を張り上げて呼びかけている。 もそもそと右手で、瞼をこすりながら静かに両目を開いた。 「な、なんなんだ…⁉こ