親ガチャ 1
微かに瞼のすき間から差してくる光で、徐々に朦朧としていた意識が鮮明になっていく。
(ん…なんだか体が重い…俺は倒れていたのか…?)
視界がまだぼやけている中、周りでガヤガヤと賑わっている音が鼓膜を突き刺した。
「はーい!すき間を埋めて一列で並んでくださーい!」
「こちらは期間限定のピックアップガチャになってます!」
「有償ガチャはこちらですー!」
辺りから、何人かが声を張り上げて呼びかけている。
もそもそと右手で、瞼をこすりながら静かに両目を開いた。
「な、なんなんだ…⁉ここは…‼」
そこには見たことのない白い部屋?空間の中に大勢の人だかりと、テーマパークのキャストのような服装の人達、大きな頭をした可愛げのないマスコットがちらほら見える。
状況の異常さに俺は困惑した。
パタパタとズボンのポケットから体を叩き持ち物、服装を確認していた。
いつも着ている白いTシャツにジーパンだ。しかしポケットの中には何も入っていない。
「おっ!お兄さん。やっと起きましたか!」
テーマパークのキャストのような女性が声をかけてきた。
「早く並ばなきゃ、いい親なくなっちゃいますよ!」
「え?」
突然話しかけられ、その女性の言っていることの意味が全く理解できなかった。
「あ・・・そうですよね!起きたばっかりで状況が理解できませんよね!
ゴホンっ!」
女性はわざとらしく咳ばらいをし、
「えぇ・・・単刀直入に言いますと、お兄さんは一度人生を全うしました!
はい!死んだということですね!」
大げさにジェスチャーをしながら、あまりにも完璧な笑顔で説明を続けた。
「ここでは、再び生まれ変わる皆さんに新たな親をガチャで引いて頂く”親ガチャの森”でございます!
一度目の人生で得た経験や徳によって、親ガチャポイントが得られます。前世の行いによって多くのポイント得られて、二度目の人生ではより幸せに過ごせるチャンスが与えられるってわけなんですよ。
もちろん!新規のお客さんもここで親ガチャを引いて頂くんですけど、最初はポイントがないので無料5連ガチャしかないですけどねー」
「ほらっ!あそこの子はご新規さんですね!」
ガチャガチャの前に赤ちゃんが並んでいるのが見える。手が届かないのでキャストの男の人が代わりに回してあげている。
「俺は…死んだのか??」
「はい!ここにいるということは、そういうことになります!
お兄さんは…死んだ歳がまだ若いので、それほどポイントは貯まってませんねぇー。回せてゴールドガチャが5回といったところでしょうか。」
そもそも、なんで俺は死んだんだ?目が覚めた瞬間、ガチャを引いて親を決めて生まれ変われ??納得も理解も出来るわけがない。
「おい!ふざけんな!!もっとちゃんと説明しろ!!」
ガッっと女性の胸ぐらをつかみ叫んだ。
「・・・説明はしました。あとは係の者に従ってガチャを引いてください。」
女性は笑顔を崩さないで言うと、後ろから男性キャスト二人がやってきて俺は列のもとへ運ばれた。
「おい‼離せ!こら!」
俺は、列に並ばされると徐々に冷静になっていった。今まで子どもは親を選べないと思っていたが、実は選んでいたんだなぁ。俺も初めにここでガチャを引いて親を選んでいたのか…。全く覚えていない。生まれる前のことだから記憶することもできないのか。
今思えば、俺の父親はどうしようもないやつだったな。しかしあいつを選んだのも俺ってわけか。今となっては会うことはもうないし縁が切れてよかったのだろう。
たしか、今俺は20歳だったか。また生まれ変わって幼稚園、小学校、中学校から通わないといけないのかぁ…。めんどくさいなぁ。
新しい親に会ったり、新しい友達を作ったりめんどくさいな…
いっそここまま死んでしまっていた方が楽だったか。
あれこれと思いにふけっていると、ついに順番が来た。
プラスチックでできたハンドルをカチ、カチと回した…。
ガコン……。
続く